研究概要 |
申請者によるこれまでの研究で、孔径O. 2μmの除菌フィルターを通過するほどに小さな極微生物(暫定的)にナノ微生物と定義)が様々な環境中から検出されることと、その中には南北両極域や高山のみに分布する極地固有種が存在することが予察的に明らかとなっている(Nakai et al.,Marine Biotechnology, 201 ; Nakai et al.,Antarctic Science, 2013)。採用第1年度目である本年度は、第54次南極地域観測で採取された南極環境試料を用いて、ナノ微生物の分離、培養および系統分類を行った。その結果、43株の純粋培養株が得られた。16SrRNA遺伝子に基づく分子系統解析により、培養株はAlphaproteobacteria、Betaproteobacteria、GammaproteobacteriaおよびBacteroidetesに属するものの、その大半は既知株との遺伝子相同性が97%以下と低く、分類学的に新規であることが示唆された。また、極域ナノ微生物の系統との比較のため、申請者が過去に極域以外の環境から分離した培養株の系統地理学的解析を行った。結果として、極域環境にも分布し、かつ、綱レベルで新奇な汎存種が見出されたため、新綱の新属新種を記載する論文を国際学術雑誌に投稿した。さらに、貧栄養から富栄養までの種々の培養条件下において、細胞サイズが0.05μm^3前後と非常に小さいActinobacteriaの新種も汎存種と判明したので、その記載論文を現在準備中である。一方で、従来の培養法だけで環境ナノ微生物の多様性を明らかにするのは困難なため、非培養法による解析にも着手した。具体的には、極域環境試料の0.2μm濾液からナノ微生物のゲノムDNAを抽出し、rRNA遺伝子の断片をPCRにより増幅した。増幅産物の大量シーケンス解析を行うべく、鋭意準備を進めている。
|