研究課題/領域番号 |
13J03459
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長尾 一哲 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
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キーワード | アルキルボラン / 量子化学計算 / 付加脱離機構 / 協奏的な酸化的付加 / アルキル銅 / アルコキシボラン / 立体収束的 |
研究概要 |
本年度は量子化学計算によるアルキルボランを用いた銅触媒アリル位置換反応の反応機構解析を実施した。その結果、銅-ビスホスフィン触媒下、1級塩化アリルとアルキルボランのアリル位置置換反応ではホウ素と銅の金属交換後に生成する中性のアルキル銅種の付加脱離機構を示す反応経路が得られた。銅触媒アリル位置換反応においてそのような機構で進行している例は全くなく、極めて新規性の高い知見であると言える。一方で、キラルな2級のリン酸アリルとアルキルボランの1,3-synの立体特異的反応の場合は、付加脱離機構ではなく、中性のアルキル銅、アルコキシボラン、リン酸アリルの3成分による協奏的な酸化的付加、続く還元的脱離を示唆する反応経路が優先的に得られた。この2つの結果から銅の配位環境と脱離基の種類によって異なる反応機構で進行するという極めて興味深い知見が得られた。本研究成果は知見の乏しいアルキルボランを用いたアリル位置換反応の機構解析の先駆的なものであると言える。 続いて、量子化学計算で得られた1,3-synの立体特異的な反応における協奏的な酸化的付加の遷移状態のモデルで銅は空き配座を1つ有していることに着目し、実験的に配位子効果を検討したところ、2級のアルキルボランの適用が可能であることを見出した。つまり、2級のアルキルボランとキラルな2級のリン酸アリルとの銅触媒アリル位置換反応がγ位置選択的かつ1,3-synの立体化学で立体特異的に進行することを初めて見出した。 さらに、アルキルボランのアリル位置換反応の立体分岐性を利用して立体収束的な反応の開発にも成功した。銅触媒と中程度の嵩高さを有するアルコキシド塩基存在下、2-シクロヘキセンジオールから誘導したリン酸アリルのジアステレオ混合物のアリル位置換反応は立体収束的に進行し、trans体を優先的に与えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究の目的はアルキルボランを用いたアリル位置換反応の開発による化学・位置・立体選択的な新規炭素炭素結合形成反応の開発である。本年度の研究成果は理論研究による反応機構解析と続く新たな合成手法の開発に成功したため、目的達成に大きく貢献したと自負している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は量子化学計算による機構解析と主に2級アルキルボランを用いた不斉アリル位置換反応の開発に着手する。機構解析は未だ十分な検討を行えていない1,3-antiたの立体化学の反応経路に関して重点的に行い、アルコキシド塩基の嵩高さと溶媒が立体選択性に与える効果についても引き続き行う。続いて2級のアルキルボランの不斉アリル位置換反応を目指す。研究指針は量子化学計算を用いて酸化的付加の遷移状態を解析し、理論的研究に基づいて高効率な新規不斉配位子の合成を行う。また量子化学計算のみに頼るのではなく、配位子検討は網羅的に行っていく。
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