研究概要 |
【目的】本研究は、集団間攻撃場面において加害者へのポジティブなラベルがその攻撃の評価にどのように影響するのかを, 第三者の評価者という視点から検討することを目的とした。 【具体的内容】昨年度ではラベリングに関して, 加害者のラベリング行動という側面とラベリングされた攻撃の評価という2つの側面から4つの研究を行った。加害者のラベリング行動については, 2人一組のチームでゲームを行う際に, ランダムで配布されたチーム名を選択するという実験を行った。その結果, これから攻撃的なゲームを行うとわかっている際には, 相手を攻撃する意図(加害意図)が高いほどに自チームの名前を相手チームの名前よりポジティブなものを選択することが示された。また, ラベリングされた攻撃の評価については, 加害者がチーム名を決めるように操作し, そのチーム名を決めた後に加害者が被害者に対して多大なノイズ音を流すという場面を用いた実験を行った。そのなかで加害者と同じ集団の他成員と第三者がその加害者をどのように判断し, 加害者に対してどのように反応するのかを検討したところ, 被害者へのネガティブなラベリングにおいては加害者と同じ集団の他成員による評価はよりポジティブにしたものの, 第三者には影響を与えなかった。一方で, 加害者に対してのポジティブなラベリングでは加害者と同じ集団の他成員だけでなく, 第三者に対してまで評価をよりポジティブにし, また加害者への行動的な反応をよりポジティブにすることが示された。 【意義・重要性】以上より, 加害者は加害意図が高まるほどにラベリングを行い, 第三者の評価者はそのラベリングによって加害者に対する評価がポジティブになることが示唆された。このことから, 戦争などの攻撃場面における, ラベリングを行う加害者と攻撃抑止を行わなくなる第三者のネガティブなダイナミズムが指摘される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究によって, ポジティブなラベリングがもたらす加害者と第三者とのネガティブなダイナミズムの一端が示唆された点は計画以上の進展ではある。しかし, 現象レベルでの確認は出来たものの, いまだその心的プロセスを明確には示すことが出来ていない。以上を踏まえ, 総合的な評価としては②に留まると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においてまず必要なのは現状の研究結果をさらに頑健なものとすることでる。現在までの研究結果において, ポジティブなラベリングによる攻撃の正当化効果を示唆することはできたものの, この研究のみでは頑健性および信頼性に欠ける。そこで, 今後の研究ではまず結果の再現性を確保することが重要である。 また, これまでの研究においては「正義」ラベリング特有の効果ではなく, ポジティブなラベリングの効果を検討してきた。計画上では「正義」ラベリング特有の問題を扱う予定ではあるものの, まずはポジティブなラベリング一般の効果を検討することが肝要であり, その上で正義ラベリング特有の効果を検討していく予定である。
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