研究課題/領域番号 |
13J03534
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長野 正展 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | キナーゼ / ペプチド / RaPID / アミノ酸 / 環状ペプチド |
研究実績の概要 |
二年目は初年度報告書の通り、サマフォリンを標的タンパク質として用いた薬理活性ペプチドの探索ではなく、『キナーゼ活性を有するペプチド酵素の探索手段の確立およびその利用』について研究を行った。 リン酸化は最もよく見られるタンパク質翻訳後修飾反応の一つであり、多くの生理現象に関与している。従って、リン酸化を触媒する酵素(キナーゼ)を自由自在に設計・合成できれば、多くの生命現象を解明できるだろう。本研究では、化学と分子生物学をハイブリッドしたRaPID (Nature, 2013,247)という技術を駆使することで、これまで不可能とされたキナーゼペプチドをの創成に挑戦する。 一年目では、キナーゼ用ペプチド(KLP)探索に用いるテンプレートDNAライブラリーの合成と抗体を用いてチオリン酸化ペプチドを選択的に回収したところまでを報告していた。二年目では、チオリン酸化のみならず、リン酸化ペプチドを補足する系の立ち上げるため、抗ヒストンH3(リン酸化Ser10)抗体を用いたリン酸化ペプチド探索系を確立させた。この系を用い、一兆個のライブラリーよりリン酸化活性を持つ環状KLPの探索を行った。しかしMALDI-TOF MSを用いてヒットペプチド上でのリン酸化の有無を確認したところ、リン酸化に相当するピークは観察されなかった。この系における失敗から、非特異に結合するペプチドの回収を避けるため抗体ではなく、解離定数に捉われない共有結合などで触媒ペプチドと回収用タンパク質を固定化すること、触媒コアとなる環状ペプチドを三次元的に安定させるため、二環・三環状の複雑なペプチドを合成し、探索に適用するという二つの大きな改善点を見つけ出すことができた。 すでに、今後は抗体を用いないチオリン酸化ペプチド探索の系を最適化し、チオリン酸化触媒ペプチドの発見を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人工キナーゼを設計するには、リン酸転移反応という素反応制御に加え、基質タンパク質への官能基選択性、そして位置選択性を確保しなければならない。そのため、有機化学スケールではキナーゼ活性のあるペプチドや有機小分子は存在せず、純粋なATPを共基質としたリン酸化反応すら報告例がない。また生物学的にキナーゼ以外のタンパク質をde novoで設計しリン酸化反応に成功した例はなく、既存のキナーゼ合成アプローチには確かな限界があると言える。 このような現状において、小生は全く新しい手段でキナーゼ活性ペプチド触媒の発見を目標としており、探索の成功は即ちに分野を問わず社会に大きな影響を与えることができると自負している。残念ながら、二年目では抗体を使ったリン酸化ペプチドの触媒の探索に失敗している。しかし、その失敗を精査することで活性種探索に必要な多くの要素を学ぶことができた。この経験を活かして最終年度の研究に迎えられることは非常にポジティブであると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
3年目は、チオリン酸化反応を触媒するペプチドにフォーカスして研究を行う。 先に述べたように、抗体を使ったリン酸化反応の探索を行い失敗に終わっているが、これらの結果を詳細に解析した結果、抗体に特異的に結合するペプチド群がヒットしてしまったことが分かっている。すなわち①非特異に結合するペプチドを除去することが、キナーゼペプチド獲得に重要であるという知見が得られている。そこで、触媒活性のあるペプチドをコバレントな結合でヒットペプチドを担体に結合させ、ノンコバレントな非特異結合を変性条件でwashすることで、真のヒットペプチドを探索することを改善点とする。さらに、抗体によるKLP探索では18アミノ酸よりなる環状ペプチドを触媒モチーフとして設計していたが、これらは分子サイズ、あるいは剛直性が十分ではないことが予想された。そこで、②剛直性による懸念を減らすべく、二・三環性のペプチドライブラリーの作成する。 三年目ではこれら2点を改善点として、チオリン酸化ペプチドの探索を行い、結果を論文として発表することを目指す。
|