本年度は、昨年度に行った研究進捗状況を鑑みて、次の二つの調査研究を実施した。 第一に、米国都市学区における学校再編への都市再開発政策の影響と課題に関する調査研究である。近年の米国学校再編政策は、単に学校を変えるだけでなく、住宅政策や経済政策等の他領域の諸政策との相乗効果によって、居住者・住宅を含む地域空間を一変させ、新たな経済開発をねらいうる方途になっている。本研究では、このような、学校再編と都市再開発の過程=「ジェントリフィケーション(gentrification)」との連関を明らかにするとともに、その結びつきの下で、学校再編政策がいかに動かされているかを捉えた。分析からは、グローバル経済下においては、教育行政が都市再開発レジームに組み込まれ、一定の役割が期待されることで、教育の理念や理想が貫かれないほどに、その存立構造が脆弱になっていることが明らかになった。その結果、児童生徒の成長発達の具体的な姿を左右する「生活経験」「教育経験」が大きく揺るがされている。さらに、本動向には、ある特定の教育への「空間的統御」という側面があることも指摘しえた。以上の成果は、学会で発表するとともに学術論文(投稿中)として取りまとめた。 第二に、上記との対比事例として、教育行政を中心として多機関連携を進め、学区全体で児童生徒の福祉の向上を目指す、オークランド統合学区の「フルサービス・コミュニティ学区」政策を取り上げて調査・分析を行った。これは、過度な「学校の自律性」強調や行政スリム化を図る昨今の米国教育行政の流れの揺り戻しと捉えうる政策でもある。具体的には、教育委員会事務局による学区全体での諸資源再配置や、医療・福祉などの他分野職員との連携を図る新たな職位の校内配置と彼らの学校間連携などが進められている。これは、地域における子どもを中心とした教育空間再編を実践している事例として注目に値する。
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