研究概要 |
本研究の目的は, 熟練した野球選手の左右方向に対する打ち分け動作が, どのようなスイングによってなされているのかを3次元的なバットの振る舞いとして調査するとともに, 打ち分け技術に長けた選手のスイングの特徴を明らかにすることであった. 当初の予定では, 大学生15~20名を実験対象としていたが, より競技レベルの高い社会人やプロ野球選手の測定も行うことができ, 計57名の選手から1000試技以上のデータを収集した. 本年度は, ボール・バットの衝突が水平面における入射角と反射角の関係によって説明できるのかどうかを検証し, レフト・センター・ライトの3方向に打ち分けられたそれぞれの打撃について, インパクト時におけるバットの傾斜角がどれだけの範囲を有していたのかを打球方向毎に抽出した. 現在も継続してデータ分析を行っているが, 分析が終了している761試技をみると, 各打球方向に対するバットの傾斜角の範囲には重複がみられ, インパクト時のバットの方位が同じであったにもかかわらず, レフト・センター・ライトへと様々な方向に打球が放たれる試技もみられた. すなわち, 熟練した野球選手は, 左右への打ち分けをバットの水平面上での方位のみでは調節しておらず, バットヘッドの下向き傾斜(鉛直角)と, バットの短軸方向におけるインパクト位置(衝撃線角度)の調節によって行っていることが明らかになった. これらの結果は, これまで考えられてきた左右に対する打ち分け技術の定説を覆すものとなる. 次年度は, 打ち分け技術に長けた選手の特徴を明らかにするため, 打球の回転に着目した研究を行う. 特に, ファールグラウンドの方向へ『きれやすい』打球と『きれにくい』打球の違いを観察し, どのようなインパクトを行うことで左右に『きれにくい』打球を放つことができるのかを力学的観点から検証する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では, 大学生15~20名を実験対象としていたが, より競技レベルの高い社会人やプロ野球選手の測定も行うことができた. しかし, 予定よりも多くのデータ収集を行ったため, 想定していた以上の時間をデータ分析に費やした. そのため, 論文の執筆状況としてはやや遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
25年度の研究によって, 打球の方向を決定する3次元的なインパクト特性を明らかにした. 26年度は, 前年度に取得したデータの分析を優先的に完了させ, 論文を執筆していく. また, 本年度は打球の回転に着目し, 回転軸の向きと回転速度を正確に分析することで, 打球の軌跡が横方向に逸れやすい打球の特徴と, それらを生み出すインパクト特性を明らかにする.
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