研究課題
真菌類細胞壁に含まれるキチンおよびキトサンの有効利用を促進するため、構造生物学的手法によりキトサナーゼ(N174Csn)およびキトサン結合モジュール(DD1, DD2)のキトサンオリゴ糖との相互作用解析を行い、これらのタンパク質によるキトサン認識機構を明らかにすることを目的とした。放線菌発現系によって安定同位体^<15>Nおよび^<13>C、^2Hでラベルを施したN174Csnを用いて、TROSY法による^1H-^<15>NHSQCスペクトルの測定を行った。主鎖HSQCシグナルを各アミノ酸残基へ帰属するため、いくつかの3次元NMRスペクトルの測定を行ったところ、良好なシグナルが得られ、HSQCスペクトルにおいて約70%の主鎖シグナルの帰属に成功した。さらに、キトサンオリゴ糖の滴定実験を行い、結合に伴うHSQCシグナルの化学シフト変化を観測した。化学シフト変化のみられたアミノ酸残基についてN174Csnの立体構造上に示したところ、結合クレフト周辺に存在する残基に大きな影響がみられた。つぎに、DD1およびDD2のNMR測定を行うために、大腸菌発現系を用いて^<13>C-, ^<15>N-安定同位体ラベルタンパク質の発現および精製を行った。得られたタンパク質を用いてNMRスペクトルの測定を行い、主鎖シグナルの帰属を行ったところ、DD1およびDD2ともにほぼ全てのシグナルの帰属に成功した。さらにキトサンオリゴ糖の滴定実験を行い、結合に伴うHSQCシグナルの化学シフト摂動に基づいて、オリゴ糖の結合部位の推定を行った。その結果、DD1、DD2ともに、β―サンドウィッチ構造の上部に突き出したループ領域に結合することが明らかになった。さらに、キトサン2糖とのドッキングシミュレーションを行い、キトサン2糖の結合部位をより正確に同定したところ、いくつかのループによって形成された浅いクレフトに結合することが分かった。
2: おおむね順調に進展している
N174CsnのHSQCスペクトルの帰属およびキトサンオリゴ糖の結合実験を行い、相互作用部位の特定に成功した。また、DD1およびDD2の安定同位体ラベル、NMRスペクトルの測定を行った。HSQCスペクトルの主鎖シグナルについてはほぼ完全に帰属でき、オリゴ糖の結合実験によって結合部位を推測した。さらにドッキングシミュレーションによって、より正確なオリゴ糖結合部位の同定を行うことにも成功し、1年目の研究計画についてはほぼ達成できた。
現在、DD1とDD2のドッキングシミュレーションの結果より明らかになったオリゴ糖結合に関与するアミノ酸残基に着目し、部位特異的変異を施したタンパク質を用いてキトサン結合実験を進めている。また、DD1とDD2の側鎖シグナルの帰属に必要な3次元スペクトル、およびNOEスペクトルの測定を行い、両者の溶液構造を決定することを2年目の主要な研究目標としている。
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