研究実績の概要 |
当研究室で開発した触媒の様々な知見を基に新たな触媒前駆体を設計・合成した。RUPCYのもつ二つのピリジル基同士をビピリジンやフェナンスロリンとして結合し四座配位子とすることで触媒の頑健性の向上を図った。合成した四座配位Ru錯体の構造は1H、13C、31P NMRや単結晶X線構造解析で決定された。リン上に様々な置換基をもつ四座配位Ru錯体を合成し、その水素化活性を比較した。その結果、ビピリジン部位を有しイソプロピル基やシクロへキシル基をもつRu錯体(RUPIP2, RUPCY2)が最も高い触媒活性を示すことがわかり、最適触媒前駆体とした。また先に述べた機構解明研究の結果から、触媒前駆体を活性化するために用いる水素と塩基 (NaOR) は系中で水素化ナトリウムを誘導しており、それが触媒活性種形成に関わっていると予想した。これを踏まえ、助触媒として水素化ナトリウムを用いることにした。RUPIP2を触媒前駆体として水素化ナトリウムと併せて用いアミドの水素化を試みた結果、触媒活性の激的な向上が確認された。本反応系は非常に高い触媒回転数を示し、アミドの水素化触媒として世界一の活性をもつといえる。現在、開発した触媒系を用い、多くの不活性型アミド、バイオマス由来化合物であるペプチド、人工高分子化合物であるナイロンの水素化分解に成功した。またこの改良した触媒系は、RUPCYを用いる系とは異なり、配位子が中心金属から外れることによる触媒の崩壊は観測されず、触媒の頑健性の向上に成功したと言える。さらに、ESI-MSを用いてRUPIP2から誘導される触媒活性種の休止状態を調べた結果、RUPCYと同様にピリジン環への水素付加が確認された。反応条件に応じて異なる構造の触媒活性種が誘導され、それぞれが触媒活性をもつことが明らかになっている。
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