研究課題/領域番号 |
13J03655
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
塚田 千恵 名古屋大学, 工学研究科, DC2特別研究員
|
キーワード | Auナノ粒子 / 液中プラズマ法 / フォスファチジルコリン / リポソーム / 押し出し法 / TEM観察 / NEXAFS測定 |
研究概要 |
本研究の目的は、分散剤を使用せず水環境下で高分散に存在するAuナノ粒子(Au NPs)を作製し、そのNPsと生体アミノ酸分子やタンパク質、細胞膜を構成するリン脂質を反応させた際に生じる分子の吸着反応や構造変化、NPsの形状変化を解明することである。さらにこれらの結果から、金属NPsの細胞に対する反応モデルの提案を考えている。本年度は、生体の細胞膜の脂質二重層を構成する主なリン脂質のフォスファチジルコリン(PC)とAuNPsの吸着反応に注目して研究を行った。AuNPsは液中プラズマ法、そして生体膜モデルとして用いられるリポソームはPC分子のみで押し出し法により作製した。それらの吸着反応を促したところ、NPsはリポソームの外側に吸着していることが透過型電子顕微鏡の観察結果から明らかになった。さらにNPsの周りはPC分子で覆われており、それら分子を介してNPsが互いに凝集した様子が観察された。よってPC分子のAuNPsへの吸着に寄与する官能基を解明するために、PC分子の親水基を構成する窒素、酸素そしてリンのK吸収端近傍X線吸収微細構造(NEXAFS)測定を行った。はじめにNPsを用いて試料作製を試みたが、PC分子は親水基または疎水基同士で結合し凝集しやすく、かつリポソームのように脂質二重層の内側に存在している分子はNPsとの反応に寄与していないため、反応前後のスペクトルに変化は見られなかった。したがってAuに対して化学吸着した分子のみを残した試料作製のため、Au板をPC水溶液中に浸して吸着反応を促したのち、板表面をmilli-Q水でリンスした。そのAu板に対してNEXAFS測定を行ったところ、反応前後でのスペクトル変化が見られ、PC分子はAu板表面に親水基全体で吸着していることが明らかとなった。この結果はNPsの場合にも反映できると考える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はフォスファチジルコリン(PC)分子のみから成るリポソームの作製およびそのリポソームに対するNPsの吸着箇所の解明、PC分子との吸着反応後に生じるNPsの形状変化および分子吸着に寄与する官能基の解明など、多角的にPC分子とAu NPsの間に生じる反応の詳細を明らかにできたため、おおむね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の結果でPC分子が親水基全体でAu NPs表面に吸着していることが明らかになったが、PC分子とNPsの相互作用について、化学結合の他に配位結合または静電気力による吸着の可能性が考えられるため、赤外分光測定や核磁気共鳴測定を行い、結合の種類について解明することを計画している。また、TEM観察ではAu NPsのリポソーム表面への吸着やPC分子を介したAu NPsの凝集の様子がみられたが、リポソームを構成する、またはAu NPsの凝集に寄与するPC分子の層数について水環境を保持した状態で解明したいと考え、現在、シンクロトロン光を用いた小角散乱測定を実施している。更に、タンパク質分子との吸着反応も随時実施したいと考えている。
|