Epichloe属エンドファイトは牧草や芝草の細胞間隙で共生的に生育する糸状菌エンドファイトである。Epichloe festucaeの宿主植物への共生的感染には活性酸素生成酵素NoxAが不可欠であり、noxA変異株は感染植物の矮化や枯死を引き起こす。さらに、NoxAの制御因子としてNoxRおよび低分子量Gタンパク質RacAが同定されており、さらに、NoxRと相互作用する因子としてBemAおよびCdc24が同定されている。また、Nox制御因子の1つであるRacAと類似している低分子量Gタンパク質としてCdc42がある。RacAがNoxRと特異的に相互作用する一方で、Cdc42はBemAと特異的に相互作用する。cdc42破壊株およびracA破壊株を作出し表現型の比較解析を行ったところ、活性酸素生成において両者が拮抗して機能していることが示された。また、宿主植物感染時には、宿主植物に矮化を引き起こすracA破壊株に対し、cdc42破壊株ではエンドファイトの全身的感染能に異常が認められた。以上の結果は、RacAとCdc42は構造的に類似しているにも関わらず、両者は機能的に分化していることを示した。この機能分化に関わる要因として、両者が異なった因子と結合していることが考えられた。そこで、結合特異性を決定するアミノ酸を特定し、特異的結合能がCdc42とRacAの機能分化に与える影響の解析を行った。結合特異性を入れ替えた結果、RacAおよびCdc42の共生確立における機能分化はNoxR結合性によって決定していることが示された。また、cdc42破壊株のBemA非結合Cdc42およびBemA結合RacAによる相補の解析を行ない、Cdc42の菌糸極性成長および細胞壁の完全性における役割に、BemAとの結合能が重要である事が示された。一方、cdc42破壊株の共生異常は、BemA非結合Cdc42およびBemA結合RacAのいずれにおいても部分的に相補された。この結果から、Cdc42の共生確立における機能には、BemAの他にも重要な相互作用因子が存在することが示唆された。
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