研究課題
極域中間圏・下部熱圏は、磁気圏からのオーロラ粒子降下やオーロラ電流等の形での太陽風電磁エネルギーの注入と、下層大気とのプラネタリー波、大気潮汐波、大気重力波などの中性大気波動を介した力学的なエネルギー輸送がともに存在するといった開放された複雑系である。スポラディックナトリウム層はスポラディックE層中の荷電粒子と中性粒子との化学変化、電場、荷電粒子やオーロラ降下粒子によって生成されることが報告されており、スポラディックナトリウム層生成・維持のメカニズムを理解することは電離圏-熱圏結合を理解する上で重要である。トロムソナトリウムライダーは極域中間圏・下部熱圏の温度、風速を時間、高度分解能良く観測することができることに加え、EISCATレーダーと同サイトに設置されており、極域中間圏・下部熱圏観測は本研究課題遂行に有効である。平成25年度は95日間ノルウェー・トロムソに滞在し、ナトリウムライダーの観測およびライダーシステムの改善に従事した。システム改善としてナトリウムライダーの絶対波長校正ユニットの再構築を行った。観測では約1094時間レーザーを稼働させ、約485時間分の温度、風速データを得た。スポラディックナトリウム層内の温度を導出するためには既存の解析プログラムをより高時間分解能に改良する必要があった。そこで新しく高時間分解能の温度、ナトリウム密度を導出できる解析プログラムの開発を行った。改良された解析プログラムは元来のプログラムと比較して約5倍の分解能向上を実現した。このプログラムを2012年1月22日のスポラディックナトリウム層のイベントに適用し、本イベントの生成原因を調査した。その結果、スポラディックナトリウム層は温度変動ではなく、スポラディックE層とオーロラによって生成されたナトリウムイオンが電場によって集積された効果が重なりあって生成された可能性が高いことが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
ナトリウムライダーによって一定の観測データを取得できたこと、高時間分解能解析プログラムの開発が順調に進行しているため、本研究はおおむね順調に進展している。
今後はEISCATレーダーの電場データから荷電粒子の鉛直速度成分を計算し、電場による荷電粒子の集積量を計算するする。また、同レーダーの電子密度データからスポラディックE層中のナトリウムイオンの数密度を推定し、2012年1月22日のスポラディックナトリウム層のイベントがどの物理機構がどの程度の割合で生成に寄与していたのかを定量的に明らかにすることを目標にする。また、これまでの研究では1イベントのみに絞って解析を行ってきたが、ナトリウムライダーの3シーズン分のデータからスポラディックナトリウム層が出現している日を抽出し、生成機構の統計解析も行う予定である。
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Journal of Geophysical Research
巻: VOL.119 ページ: 441-451
10.1002/2013JA0195620
Geophysical Research Letters
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