研究課題/領域番号 |
13J03745
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
MIRANDA MARTINSANTIAGO 東京工業大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 量子気体顕微鏡 / レーザー冷却 / イッテルビウム / 光格子 / ボース凝縮 |
研究実績の概要 |
私は、イッテルビウム(Yb)原子を2次元光格子にトラップすることで、大規模なエンタングルメント状態を生成することを目指している。その第一段階として、光格子に原子をトラップし、「量子気体顕微鏡」で原子の蛍光を画像化することに成功した。 量子気体顕微鏡では2次元光格子にトラップされている原子に励起光を当てて、各サイトの原子が放出した蛍光をCCD カメラを使って高分解能で観測する。明瞭な画像を得るためには、1原子あたりおよそ1万個の光子が必要とされるが、光子の放出に伴い、原子が急速に加熱されることが問題となる。これまで多くの研究者がこの加熱を抑えるために、原子を冷却する必要があると考えていた。これに対し私は、100mK程度の深いポテンシャルを準備し、励起光(波長399nm) による加熱を単純に抑え込んでしまうという方法をとることにした。このように深いポテンシャルを基底状態に作ろうとすると、様々な問題が発生することが知られている。私は基底状態ではなく、励起状態に深いポテンシャルを形成するという手法をとり、問題を回避した。撮像時、励起光を照射すると、基底状態と励起状態がカップリングするため原子に対して十分深いポテンシャルを与えることができる。実際に格子間隔が543nmの2次元光格子を固浸レンズの直下2μm の場所に構築し、励起光を照射することで、320nm(FWHM) という高分解能で個々のサイトを観察することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
アルカリ原子であるルビジウム(Rb)に対する量子気体顕微鏡が実現されて以来、フェルミオン同位体を有する原子種に対して顕微鏡を実現することが世界的に急務となった。候補となる原子種として、カリウム(K)、リチウム(Li)、イッテルビウム(Yb)が注目されていたが、Rb原子特有の冷却手法を活用できないことが大きな障壁となっていた。私は、「サイト内で原子を冷却しなければならない」という固定観念を捨て、「顕微観測中の原子の加熱に耐えうる深いポテンシャルを形成する」という全く新しい発想にたって研究を進めた。その結果、世界で初めて、フェルミオン同位体を有する新しい原子種に対して量子気体顕微鏡を構築することに成功した。本研究に関する競争の激しさは、我々が論文を投稿した後、Harvard大、 MIT、そしてStrathclyde大の3グループが、ほぼ同時にK、Liに関する成果をarXivに投稿したことからも理解される。以上より、本研究が当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、Yb原子が有する核スピンを利用して大規模なエンタングルメント状態を生成することを計画している。現在、量子気体顕微鏡の観測対象としている174Yb(ボソン)は核スピンをもたないため、次のステップとして、171Yb(フェルミオン)に対して量子気体顕微鏡を実現することを目指す。私が考えた手法はYbのどの同位体に対しても原理的に有効であるため、一度光格子中に原子をトラップしてしまえば、171Ybを蛍光顕微観測すること自体は問題なく行えると考えている。しかしながら光格子中に原子をトラップするためには、171Ybを十分冷却する必要があり、そのためには蒸発冷却を施さなければならない。174Ybと異なり、171Ybは極めて小さな散乱長しかもたないため、単体で蒸発冷却を施すことは難しい。そこでまず、171Ybと173Ybを混合し、協同冷却を施すことで、目的を達成しようと考えている。
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