本研究の目的は、カンボジアにおける市民社会の政治的役割とその実像を、土地紛争の事例から明らかにすることである。この目的に沿い、本研究は次の3つの主題を土地紛争の事例において検討する。(1)ADHOC(カンボジア人権開発協会)と主要ドナーの関係性、(2)ADHOCを含む人権NGOとカンボジア政府、民間企業の権力関係、(3)ADHOCがどのような活動を実施し、政府や民間企業に対していかなる影響を与えたのか。 主題(1)は現時点で文献調査の段階のため、引き続き取り組んでいく。 主題(2)は、土地紛争において、政府、民間企業、市民社会の三者間の政治力学を明らかにすることが目的であるため、まずカンボジアにおける土地紛争の位置づけが必要となる。これに関する論文(査読有)を執筆し、掲載が確定した。同論文では、2012年に開始された土地政策が、翌年の総選挙に向けた支持調達戦略の一部であったと結論づけた。同論文の意義は、支持調達戦略がどのような分野で、どのように実施され、政府がどのように宣伝材料としているのかという具体的な事実関係を一次資料から明らかにしたことである。 主題(3)については、研究成果を学会で報告した。結論は以下のとおりである。ADHOCの活動が、制度の改善や土地の返還など根本的な土地紛争の解決に直接つながることはなかった。しかし、メディアを介して土地紛争の現状を発信し、政府や企業を批判したり、解決を促したりすることで、援助供与国・機関の関心を引き寄せ続け、間接的な監視体制を構築している。つまり、ADHOCの活動は、紛争状況の悪化を防ぐ抑止効果の役割を果たしており、市民社会は政府や民間企業に対して間接的に影響力を行使しているのである。
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