研究概要 |
本年度は, ホスフィンオキシドの高い電子受容性を生かしたドナー・アクセプター型共役化合物を合成し, 種々の溶媒中で蛍光特性について検討した. ドナー・アクセプター型分子の蛍光波長が溶媒によって大きく変化することに着目し, 効率的なπ拡張と高い蛍光量子収率の実現を目指して, 2位に電子供与性アリール基をもっベンゾボスホールオキシドを設計・合成した. まず, 2-プロモ-2-[(4-クロロフェニル)エチニル]ベンゼンを原料とし, アミノホスフィンを中間体とするワンポット分子内環化および続くリン上の酸化により, 3-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)ベンゾホスホールオキシドを鍵前駆体として得た^<[1]>. 次いで, 鈴木一宮浦カップリング反応およびアミノ化反応により, 標的化合物2-[4-(N,N-ジフェニルアミノ)フェニル-1,3-ジフェニルベンゾホスホールオキシドを得た. ベンゾボスホールオキシドの光物性について検討したところ, 化合物はプロトン性溶媒中でも高い蛍光量子収率を保持することを見出した. 多くの環境応答性プローブがプロトン性溶媒中で消光する事実とは対照的な結果である, また, モル吸光係数と蛍光量子収率の積で定義される明るさは1.7x10^4M^<1->cm^<-1>(シノクロヘキサン中)と良好な値を示した. プロトン性溶媒を含む様々な溶媒中でのストークスシフトを算出し, Lippert-Matagaプロットをおこなったところ, ストークスシフトと溶媒の配向極性は直線的な比例関係になり, 化合物と蛍光分子に特異な相互作用がほとんどないことがわかった. 化合物の蛍光を測定することで媒質の極性を定量化できる可能性が示唆される. 現在, この化合物を用いた動物細胞の染色実験をおこない, 染色された細胞組織の極性環境に依存して発光色が異なることを予備的な知見として得ている.
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今後の研究の推進方策 |
今後, どの細胞組織がどのような極性をもつのか明らかにするため, 共染色実験をおこなっていくと同時に, 実践に即した蛍光プローブの開発を目的に, 水溶性の向上や蛍光のon/offを制御するべく, ベンゾボスホールオキシドのリン上および2,3位の置換基の検討をおこなっていく.
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