研究概要 |
本年度はリポソーム膜によるアミノ酸の不斉認識能についてメカニズム解明を目指し, 各種検討を行った. 不斉認識の経時変化とそれに伴う現象を評価するため, 膜特性の評価手法として広く用いられている分子蛍光プローブ法を利用した. この検討により, 吸着開始段階において誘導される不斉選択的なリポソーム膜表層の極性低下が確認された. この知見によりアミノ酸吸着の際には, 膜表層で極性低下が誘導され, 各種結合が強化されることによって高い不斉認識が起こるというモデルが示唆された. 併せて吸着平衡時点での吸着等温線について検討した結果, Langmuir吸着等温線に非常に良い相関を示す事がわかった. これらの結果より, リポソーム膜での不斉認識の際には, 膜表層に単分子層の吸着サイトを形成し, 秩序高い結合形成が起こっている事が示唆された. 上記の知見は, 脂質分子の電荷や原子配置を基にしたリポソーム膜デザインによる, 高い不斉認識能の設計を実現することに寄与できると期待される. 結合形成に関するさらなる知見として, 本年度は紫外レーザー(266nm)を用いた顕微Raman分光を測定し, トリプトファン側鎖の共鳴ピークの増大が確認されたことにより, 膜への吸着の際の水素結合による寄与を確認することに成功した. 今後は高濃度の試料調製等によってより詳細に, 官能基単位での相互作用の変化を追跡することを目標としている. その手段としてAMBERソフトウェア等の分子動力学計算による結合エネルギーおよび原子間距離の検証は有用であり, 現在計算環境の整備を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究計画で示していた認識メカニズムの解明について, 種々の分子蛍光プローブを用いた膜表層極性の変化を確認することに成功するなど, 一定の成果が得られた. さらに, 顕微Raman分光分析については, 紫外レーザーを利用して, 不斉認識時の水素結合形成の確認を達成した. 一方, 分子動力学計算に関しては計算環境の整備に留まっているなど, 官能基単位での結合様式の考察については現状十分な成果を得るに至っていない.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り, リポソーム膜を「場」とする不斉反応について検討する. 基質分子の不斉選択的な吸着を利用した効率的な不斉反応の誘導, あるいは生成物の立体構造制御等を目指して, リポソーム膜を反応場とする高度な反応設計の指針に繋げる. これを達成するには, 本年度から行っていた不斉認識メカニズムの検討について, 官能基単位での視点による考察が必要になる. そのため, 顕微Raman分光測定や赤外分光測定のさらなる改良・検証や, 分子動力学シミュレーションを利用した各種結合状態の計算は, 引き続き行っていく.
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