研究課題
本年度は脂質膜を場とした不斉分子の認識・変換プロセスを設計することを目標とし,対象分子に対する認識挙動およびその応用の検討を行った.分子蛍光プローブ法や高周波誘電分散解析法を駆使して検討を行い,吸着対象分子であるアミノ酸分子の特性である側鎖構造の極性・大きさに応じて脂質膜表層の親疎水性が段階的に変化することを見出し,自己組織化膜上での不斉分子の認識過程について意義のある知見を得た.また,脂質膜の分子集合状態が不斉分子認識において影響を受けることは示差走査熱量測定(DSC)によって確認している.脂質膜による分子認識対象の拡張を行うため,薬剤分子として知られるプロプラノロール(PPL)の吸着挙動及び相互作用を検討した結果,負電荷リン脂質により形成されるリポソーム膜に対して,アミノ酸吸着に比べて非常に速い,イオン結合を主な寄与とした非常に強い吸着が起こることを明らかにした.この吸着は不斉分子の認識を伴わないことを確認しているが,脂質膜を分子認識の場として考えた際のケーススタディの1つとしてみなすことができる.上記の脂質膜上の分子認識を,分離基材および反応器としての応用するため,リポソーム全量を包埋したハイドロゲル担体の作製を試行した.このハイドロゲル内では相転移などのリポソーム膜の特性を同等に有することをラマン分光法で確認し,またアミノ酸の不斉分子の認識機能を示す事も確認した.上記の結果は脂質膜およびベシクルでの分子認識・分離技術において意義のある知見であると考えられ,投稿論文4報に各々内容を纏めて投稿しており,現在審査中にある.
2: おおむね順調に進展している
アミノ酸や各種薬剤分子など対象分子の拡張による脂質膜上での吸着様式の体系的理解や,リポソーム膜を高濃度に包埋したハイドロゲル担体の調製と光学分割への試行に取り組み,リポソーム膜のような脂質分子の自己組織系における分子の認識・変換プロセスの開発を行うにあたり意義のある結果を見出している.以上の内容は当初の計画以上の進展を見せ,投稿論文に纏められるまでに至っている.一方,本年度の研究計画の項目の1つである不斉反応について,ペプチドカップリング反応に関しては脂質膜場のアミノ酸認識による反応促進を確認するに留まっており,今後は膜場のデザインや基質・触媒間の相互作用の制御によって広範な不斉反応への展開が必要である.
当初の研究計画であるリポソーム膜を利用した光学分割・不斉合成法への応用を達成するための各種検討を行う.本年度に行った脂質膜での分子認識の対象の拡大をさらに進め,識別分離を行う上でのゲスト分子に係るキーパラメーターから分離指針を設計できる知見の構築を目指す.また,分子認識が行われる際の膜場特性を理解する上で重要な脂質膜の相図に関する検討により,分離・変換プロセス設計に必要な情報を得ると共に,脂質膜場での汎用性の高い優れた系への展開を目指す.応用を実現するデバイスに関しては本年度ハイドロゲル包埋法により形成を確認しており,今後その形成条件やより良い分離基材設計についての検討を行う.
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (6件) 備考 (1件)
Lab on a chip - Miniaturisation for Chemistry and Biology
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http://www.membranome.jp/B-ICE