本課題は、ロシア系住民居住地域を対象として、多数派民族の同化に直面した時における少数民族の行動に関する研究である。3年目は、①研究の公刊、②比較分析、③資料収集を行った。 ①モルドヴァの沿ドニエストルにおける分離状態の持続を理論的な観点から執筆し、国際安全保障の視点を取り入れて以下を明らかにした。紛争当事者は和平交渉を通じて、その利益を調整し、協力可能な範囲を拡大させているものの、領域を巡る紛争当事者の見解の齟齬(争点)は解決されず、アクターの行動は紛争の凍結へと向かわざるを得ない。長期的に見ると、国際社会にとっても、紛争当事者にとっても、紛争の凍結は紛争解決策とは言えない。しかし、紛争は再発しておらず、和平も破綻していない。領域を巡る争いは解決されていないが、再発は防止されている。以上から、「凍結された紛争」はロシア・グルジア戦争に見られるように容易に崩壊しやすいが、1つの紛争管理手法となり得る。 ②ソ連解体期における沿ドニエストルとクリミアの比較分析を行い、『日本比較政治学会』の年次大会で報告した。この報告では、両事例の過程追跡を行い、共和国政府による分離勢力の要求を承認するタイミングが、両事例の帰結を分けたと結論付けた。 ③ロシア連邦でクリミアの事例に関する資料を収集した。②では、クリミア政府は如何なる動機で自治共和国を形成したのか、クリミア・タタール人の帰還は現地政権の政治的決定を如何なる効果を与えたのか、など分析が不十分であった。そこで、クリミア政府とクリミア・タタール人の新聞資料、秘密集会、デモの内実、指導者の手記等の文書、ペレストロイカ期の帰還に関する文書を広く収集した。 ソ連解体期に多数派との共存を受容したクリミアの事例が十分に考察されず、比較の精緻化が課題となっている。今後の研究では、自治制度の機能を対象とし、その比較分析を行うことで、研究を深めたい。
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