研究課題/領域番号 |
13J03885
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 翔 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | キスペプチン / 視床下部 / 排卵 / 卵胞発育 / Kiss1 |
研究概要 |
性腺機能は視床下部を頂点とする中枢系によって厳密に制御される。視床下部より分泌される性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)のパルス状の分泌は卵胞発育や精子形成を刺激し、メス特有のGnRHの大量放出(サージ)は排卵を誘起する。パルスとサージ状分泌を制御するメカニズムを明らかにすれば、受胎率低下をもたらす繁殖障害の根本的解決が可能になると期待される。本研究では、視床下部に発現し、GnRH分泌を強力に促進するキスペプチンに注目し、視床下部弓状核(ARC)のキスペプチンニューロンがパルスジェネレーターで、前腹側室周囲核(AVPV)のキスペプチンニューロンはサージジェネレーターであると考え、この二カ所に局在するキスペプチンニューロンの生理的機能を明らかにすることを目標に、1. Kiss1-knockout/tdTomato-knockinラットの表現型解析、2. ARCまたはAVPV特異的キスペプチン欠損動物モデルの作出、3. キスペプチンニューロン抑制モデルラット作出にむけた遺伝子改変ラットを作出することを目的とした。1. すでに作出されたKiss1-knockout/tdTomato-knockinラットの表現型解析を行った。Kiss1-knockout/tdTomato-knockinラットではGnRH分泌の指標となる黄体形成ホルモン分泌が全く見られなかった。また、形態学的解析によって、本来メスのみで発現がみとめられるAVPVにおいてキスペプチンニューロンの指標であるtdTomatoを発現する細胞が検出された。サージに重要と考えられるAVPVキスペプチンニューロンの性差の構築にキスペプチン自身が関わっているという新たな可能性についても研究を進め、サージジェネレーターの解析を行う予定である。2. すでに作出された遺伝子改変マウス(Kiss1-floxed)の視床下部にin vivoエレクトロポレーション法によって遺伝子導入を行った。外因的にARCまたはAVPVにCreリコンビナーゼを発現させるための検討として、遺伝子導入が成功した細胞では緑色蛍光タンパク室(GFP)を発現するプラスミドを導入した。目的の部位の一部ではGFPを発現する細胞が観察されたが、その導入率は低く、ARCまたはAVPVの各領域のキスペプチンニューロンすべてに遺伝子導入するにはさらなる検討が必要えある。遺伝子の導入部位、電流値、振幅数などの条件検討とあわせてアデノ随伴ウイルスによる遺伝子導入も並行して進めて行く予定である。3. 人工染色体(BAC)を用いて、Creリコンビナーゼにエストロジェン受容体が融合したCreER遺伝子をラットKiss1遺伝子に導入したコンストラクトを染色体に導入した始祖系統を得た。 今後は始祖系統の表現型解析を行い、Creリコンビナーゼ発現が十分認められれば、Creリコンビナーゼ発現細胞特異的に特定の遺伝子を発現させるアデノ随伴ウイルスを導入し、領域特異的なキスペプチンニューロン抑制モデルラットを作出していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
脳内において局所的に遺伝子を導入するため、in vivoエレクトロポレーション法を用いたが、十分な導入効率を得られていない。これまで成体の哺乳類においてin vivoエレクトロポレーションによって脳内に遺伝子導入した例は少なく、高確立で遺伝子導入できる条件は確立されおらず、本研究で新たに検討する必要があり、研究の進行が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまずGFPの遺伝子導入率を指標に、成体の視床下部組織に適したin vivoエレクトロポレーションの導入条件を確立する。その後、Creリコンビナーゼ発現プラスミドを導入し、ARCまたはAVPV特異的キスペプチン欠損動物モデルの作出を試みる予定であるが、in vivoエレクトロポレーションの適切な導入条件が確立できなかった場合の対応策として、アデノ随伴ウイルスの局所投与による遺伝子導入検討も並行して行う。また、キスペプチンニューロン抑制モデルラット作製のため、キスペプチンニューロンにおいてCreERが発現するトランスジェニックラットの始祖系統の表現型解析を行う。
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