研究課題/領域番号 |
13J03920
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
橋本 あゆみ 早稲田大学, 文学研究科, 特別研究員DC2
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キーワード | 大西巨人 / 野間宏 / 戦争文学 / 政治と文学 / 新日本文学会 / 人民文学 / 『神聖喜劇』 / 『真空地帯』 |
研究概要 |
平成25年度の研究は、大西巨人の文学における戦争および軍隊表象の特徴を、野間宏との比較から明らかにすることを目標とした。昭和27年の大西巨人による『真空地帯』批判と『神聖喜劇』のテーマ的関連性は先行研究でも指摘されてきたが、本研究の特色は、その背景をなす日本共産党分裂に伴う『新日本文学』(大西が所属)と『人民文学』(野間が中心的役割を果たした)の言説的対立を検討し、時代情況への文学的応答という面から『真空地帯』と『神聖喜劇』の軍隊表象を捉え直したことにある。『人民文学』全冊から野間のエッセイおよび軍隊・警察予備隊と戦争に関する記事を抽出し考察したところ、朝鮮戦争と再軍備に警鐘を鳴らすという『人民文学』の課題と、『真空地帯』の《圧倒的な抑圧装置である軍隊》《被害者としての兵士》というイメージは照応し、相互補完的に文学運動の一翼を担っていた。対して大西による軍隊制度分析は文学運動には応用されにくかったが、ベトナム戦争期以前に兵士の加害/被害の両面性に注目するなどの先見性が含まれた。この成果は日本近代文学会秋季大会で「大西巨人・野間宏における「大衆」の戦争関与に対する意識の比較――『真空地帯』論争と『新日本文学』『人民文学』という場」として発表した。 この他、軍隊の「法」(軍刑法のほか生活規定など)の把握の違いが、『神聖喜劇』と『真空地帯』の軍隊イメージの違いに深く関連することを「軍隊を描く/法をとらえる――大西巨人『神聖喜劇』・野間宏『真空地帯』比較――」として論文化し、『昭和文学研究』に投稿した。また、山口直孝氏(二松学舎大学)、坂堅太氏(京都大学)と共同で、作家・編集者の玉井五一氏への聞き書きを行った。1950年代前後における大西巨人と野間宏、また『新日本文学』『人民文学』について、当時を知る立場から貴重な証言を得、成果を『二松学舎大学人文論叢』に二回に分けて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
最大の課題とした大西巨人と野間宏の軍隊表象と1950年前後の政治・社会情況との関連については、一定の成果を蓄積した。ただ学会で発表した内容を改善し論文化する作業が当初の見込みより難航し、年度内に査読誌に掲載することができなかった。また神奈川近代文学館所蔵の大西巨人関連の書簡類の調査に関しては、資料閲覧および内容のデータ化は進めることができたが、有用な形で公表するにはもう少し準備が必要と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、大岡昇平の戦争文学との比較の中で大西巨人の戦争把握、軍隊表象の特徴を主軸に研究を行いたい。大西は大岡の『俘虜記』『野火』に対して「明晰にして論理的な認識ならびに表現」を認め高く評価するなど、自らが完成させるべき戦争文学の参照項の一つとしていた向きがある。大西が『神聖喜劇』、大岡が『レイテ戦記』に取り組んだ時期には、資料に基づいた歴史的事実や「記録」への強い関心もまた両者の共通項となるが、一方で宗教的なものや戦死者(特に日本兵)への「うしろめたさ」への態度には明確な差異がみられる。それらが両者の戦争文学にもたらした影響を考察する予定である。また、大西巨人死去に伴い蔵書目録の作成等も行う見込みである。
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