研究課題/領域番号 |
13J03929
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松田 さゆり 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 素粒子実験 / ステライルニュートリノ / ニュートリノ振動 |
研究実績の概要 |
本研究では、弱い相互作用を起こさない第四のニュートリノ「ステライルニュートリノ」の検証実験の開発研究を進めている。今年度は線源ベース以外に、サイクロトロンを反ニュートリノ源とするIsoDAR実験の基本設計に取り組んだ。 IsoDARでは、60MeVの陽子ビームをFLiBeターゲットに当ててBe9による中性子生成、Li7による中性子捕獲、Li8のβ崩壊を経て高強度の反電子ニュートリノを生成する。これを反ニュートリノ検出器KamLANDで観測し、ステライルニュートリノとの短距離振動を検証する。 まず、ビームラインのコンポーネントをほぼ全て含めたシミュレーション環境を実装し、小型サイクロトロンでの予備試験の結果とよく一致することを確認した。これを利用して、標的周辺に置く放射線遮蔽物の設計に向けた評価を行った。標的は現在のコントロールルームに置く予定だが、実験終了後に規制エリアにならないよう、放射線生成量を0.1Bq/g以下に抑える必要がある。遮蔽物での減衰量を決めるため、壁面から採取した石に放射線を照射して放射能を評価した。壁面に到達する予想中性子量より数桁強い放射線を当てたところ、最も強いものでは30ppmの60Coが検出された。この結果を踏まえて、3.5m四方のホウ素含有コンクリートで覆った標的から生じる中性子量をシミュレーションで評価した。ビーム垂直方向については目標減衰量を十分満たしたが、ビーム方向に関しては中性子のスパイクが一部見られたため、厚みを増やして対策する。 冷却系はサイクロトロンとビームラインを冷却する一次系と、標的を冷却する二次系に分かれる。二次系の予想水量は毎分5千リットルで、地下水でまかなえる量だが冷却塔でも対応が可能か検討した。
以上のようにシミュレーションの実装と関連した評価を行い、遮蔽物や冷却系の基本設計を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シミュレーション環境が整ったことでビームラインで起こる様々な影響の評価が可能になった。小型サイクロトロンを用いた予備試験とのクロスチェックで、設計をより詳細に行える段階に進むことができた。標的周辺の放射線遮蔽物や冷却システムにおいては、修正可能な範囲内で設計することができている。 今後は各々の実証試験に力を入れることで、実験の実現性をさらに高められると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究でシミュレーション環境はほぼ全て整ったが、ビームをサイクロトロン平面へもちこむ部分の導入が完了していない。このスパイラルインフレクタと呼ばれる装置は高電流だと複雑な境界状態を生み、空間電荷効果によってビームロスが起こる。任意の場を設定できるコードを導入し、より詳細な効果を考慮できる環境の構築を目指す。50mA陽子ビームでの予備実験も並行して行い、空間電荷の影響についての理解を深める。 また、電力や地下水、換気に関する現地調査を進める。 電力に関しては、ビームライン全体での消費量が3.4MWと見積もられている。現在の仕様でも実現可能な量だが、実証試験を計画する。 冷却水に使用する地下水においては、流量の確認と周辺の実験に影響を与えない排水路の構築に向けた調査を行う。 中性子フラックスが高いエリアでは、空気の放射化が起こる可能性がある。 この場合短寿命の放射性物質が崩壊した後の換気が必要となる。坑内の気流を調査し、換気系の構築を計画する。
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