本研究では、弱い相互作用を起こさない「ステライルニュートリノ」の探索をKamLAND検出器で行うための研究を進めている。本年度は将来のデータ解析に向けてソフトウェアによるエネルギー分解能および位置分解能向上のための研究を行った。
(1) 有効PMT増加による取得光量の向上 KamLANDの内部検出器では1879本の光検出器PMTを用いてシンチレーション光を観測するが、一部のPMTでは信号増幅能力が低下または上昇する現象が見られている。このようなPMTは事象再構成の際に除外されるため取得光量の減少、すなわちエネルギー分解能の低下を招く。除外したPMTは2011年時点で約60であったのに対し、2015年には200を越えている。一光子あたりの取得光量を基準として使用するPMTを選択するが、増幅能力の変動に対応できず誤って評価するPMTがあることがわかった。取得光量分布に応じたフィット方法を適用することで決定精度を向上させ、全体の3.7%にあたる約70本を有効PMTとして回復させることに成功した。 (2) 観測時刻補正の高精度化 信号の観測時刻はトリガー発行のタイミング、信号伝達時間の違い等によってチャンネル固有のオフセットをもち、キャリブレーションで評価・補正して事象位置の再構成に使用する。このオフセットはエレクトロニクスボードの交換等によって数ナノ秒ずれることがあり、その都度補正値を評価する必要があるのだが、その決定精度と安定性が不十分なことがわかった。そこで、PMTの取付位置に応じたタイミング分布のPDFを使った評価手順を確立し、決定精度が向上しただけでなく、各ケーブルにおけるタイミングの変動を±1nsから半分程度にまで抑えることができた。これによって事象位置の決定精度が向上し、液体シンチレータを収めるバルーンの位置変動を最大で80%低減することができた。
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