研究課題/領域番号 |
13J03940
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
養老 瑛美子 総合研究大学院大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 植物微生物相互作用 / 根粒共生 / マメ科植物 / 根粒菌 / 感染 / 器官発生 |
研究概要 |
研究目的は、マメ科植物-根粒菌間の共生の成立過程において、異なる根の組織間で同時進行する二つの現象、表皮で始まる「感染」と皮層で起こる「器官発生」のシグナリングの相互作用の解明である。既知の非生生変異体はいずれも、「器官発生」と「感染」の両過程に異常を示すことから、二つの現象の独立性や、表皮と皮層の組織間でのシグナル伝達の実体解明に迫ることは難しい。そこで、我々は「感染」は過剰に起こるが、「器官発生」が全く起こらない新規の表現型を示すミヤコグサ変異体daphneを単離した。このdaphne変異体を用いた一連の解析により、「器官発生」が皮層で起こると、NIN遺伝子に依存して、表皮における「感染」が抑制されるという新たなシグナリングの相互作用を見出すことに成功した。 具体的には、NIN遺伝子の発現量解析から、daphneでは「感染」による誘導能が低レベルで維持されている一方、「器官発生」に重要なサイトカイニンによる誘導能の完全喪失が明らかになった。逆に、daphneの表皮での空間的な発現パターンは、野生型に比べ増大していた。また、NINの過剰発現により、daphneの「感染」は劇的に減少した。さらに、皮層特異的なNIN発現系の導入により、daphneの表現型は復帰した。これらは、daphneがNINの完全機能喪失変異体であるninとは異なり、NINの機能のうち表皮での「感染」の機能は維持しているが皮層での「器官発生」の機能のみ失った変異体であり、「器官発生」において機能するNINは、「感染」におけるそれを抑制する効果を持つことを示唆した。 本成果は、「器官発生」を正に制御するとして知られていたNIN遺伝子に、「感染」を負に制御するという新たな機能的側面を付与するものである(Yoro et al. (2014) Plant Physiology)と同時に、これまで技術的または変異体の不足等により解析が困難であった「感染」-「器官発生」間でのシグナル伝達の実体の一端を解明したという点で、重要な意味をもつ。さらに、NINは根粒共生の進行の鍵となる転写因子であることから、本研究で解明した「感染」と「器官発生」両現象でのNINの異なる機能は、今後のこの二つの現象の共通性と独立性を理解するための、新たな手法や重弾な知見をもたらすことが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らは、daphne変異体を用いたNIN遺伝子の新たな機能的側面の解明に関する成果について、国際学会(18th International Congress on Nitrogen Fixation)ではYoung Scientist Awardを受賞し, Plant Physiology誌に論文が受理された点で、第一段階の目的は達成したと評価できる。一方で、申請時に本研究の目的として挙げた、NIN遺伝子の上流下流因子の同定は達成しておらず、今後最も力を注いで達成すべき研究目的である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、NIN遺伝子の表皮での「感染」と皮層での「器官発生」における異なる機能の解明を目指してきた。今後は、この異なる機能を支えている分子基盤、すなわちNIN遺伝子の表皮と皮層という異なる組織間での発現誘導を担う上流因子、「感染」と「器官発生」とで異なる機能を発揮するために必要なそれぞれの現象において特異的なMNと協調して機能する因子や下流因子について解析進めることで、「感染」と「器官発生」間でのシグナル伝達の分子実体の解明に迫ることができると考えている。既に、計画にも記した、野生型とdaphne変異体の遺伝子発現を網羅的に比較するためのトランスクリプトーム解析を現在進めており、NIN遺伝子を介した「感染」と「器官発生」両シグナリング経路の周辺で機能する遺伝子の候補の絞り込み行う予定である。 また、現時点でdaphne変異体の成果がある程度まとまったため、上の計画と同時並行して、根粒共生に異常を示す様々な他の変異体の解析も進めていくことにする。
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