有限の化学ポテンシャル(μ)とθの領域には符号問題がある。有限μ領域に対して、クォーク数密度による状態密度を用いた計算手法が提案されている。この計算手法を用いるにあたり、現在用いている格子作用によりクォーク数密度そのものについて先行研究と無矛盾な結果を得られるのかを調べた。その結果、虚数μ領域からの解析接続による結果は、再重み付け因子のテイラー展開法による有限μ領域の先行研究での結果と無矛盾であることが示され、さらに先行研究よりも我々の結果の方が計算精度に優位性があることを示された。この研究結果をAmerican Physics SocietyのPhysical Review Dに投稿し、掲載された。 クォーク数密度を用いた状態密度の計算は、計算コストが非常に高いことが判明した。そこでクォーク質量が重い時に使えるホッピングパラメータ展開を用い、リンク変数の掛け算のみで書けるポリヤコフループでクォーク数密度を近似することにした。本格的な計算は進んでいないが、この近似により計算時間が1万分の1程度になることは確実である。 状態密度を求めるアルゴリズムとしてLLRアルゴリズムが最近提案された。このアルゴリズムを用いると、状態密度の値が10の-100乗のオーダーで求まることが先行研究により示されている。クォーク数密度が高い時の状態密度はμ=0の場合非常に小さい。つまり、今我々が欲しい高密度領域の状態密度の値はLLRアルゴリズムで求められる可能性がある。 θ真空の物理を格子QCDで研究するためにLLRアルゴリズムを用いた状態密度が有用である。上記のアプローチは、符号問題のないμ=0におけるクォーク数密度の状態密度を格子QCDで求める。これはθ真空の物理では、θ=0におけるトポロジカル電荷の状態密度を格子QCDで求めることに対応する。つまりトポロジカル電荷の状態密度を求めることによって、符号問題のあるθ真空の物理を直接調べられる。
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