研究課題/領域番号 |
13J03967
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 聖哉 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
キーワード | 脂肪肝 / SREBP / ChREBP / DNAメチル化 |
研究概要 |
1. 本研究で着目するSREBP1、ChREBPアイソフォームの組織における発現分布を調べたところ、SREBP1aとChREBPαはユビキタスに発現しているのに対し、SREBP1cとChREBPβは組織によって遺伝子発現量が大きく異なることが分かった。このような組織における遺伝子発現量の違いはエピゲノム制御の一つとして知られる「プロモーター領域におけるDNAメチル化」が関与している可能性が考えられる。そこで、各組織におけるSREBP1c、ChREBPβプロモーター領域におけるDNAメチル化量をバイサルファイトシーケンス法により測定した。その結果、いずれの組織においても両遺伝子のプロモーター領域は非メチル化状態にあり、組織におけるDNAメチル化量に違いは認められなかった。上記の実験結果は、SREBP1cとChREBPβは組織によって遺伝子発現量が大きく異なるが、このような発現制御機構には、従来までに知られているようなDNAメチル化を介した転写制御機構ではなく、全く別の転写制御機構が関与する可能性を示唆するものである。 2. スターチ食もしくはフルクトース食をマウスに10週間与えて脂肪肝を進行させた後の肝臓における遺伝子発現量を測定した。その結果、スターチ食を摂取させたマウスと比較して、フルクトース食を摂取させたマウスでは肝臓におけるChREBPβの発現量が増大し、これと同調するように解糖系・脂肪合成系酵素の遺伝子発現量が増大していた。この時、フルクトース食の摂取により肝臓SREBP1cのmRNA発現量も増大したが、脂肪合成系酵素の転写反応に直接的に関与する活性型SREBP1のタンパク質発現量に変化は認められなかった。以上のような知見から、フルクトースの過剰摂取などによる脂肪肝の進行には肝臓におけるChREBPβの発現増大が関与する可能性が考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「SREBP1、ChREBPアイソフォームの組織分布にエピゲノム制御が関与するか」という点についてはDNAメチル化は関与しないという明確な解答を得ることができたため。加えて、フルクトース誘導性脂肪肝の進行に肝臓ChREBPβの発現増大が関与するという、脂肪肝進行メカニズムの分子実体を解明する手がかりを得ることに成功したため。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに得てきた研究成果は、肝臓におけるChREBPβの発現が脂肪肝の進行に関与することを強く示唆するものではあるが、「どのような分子機構でフルクトースの摂取によりChREBPβの発現が増大するのか」「フルクトース誘導性脂肪肝の進行において肝臓のChREBPβの発現増大がどの程度のウエイトを占めるか」については依然として十分な結論が得られていない。今後は、アデノウイルスを用いた強発現実験、shRNAを用いた遺伝子ノックダウン実験を軸に、肝臓におけるChREBPβの機能の解析を進めていく予定である。
|