研究概要 |
本研究は、人間の判断や思考が意識的に体験される際に、潜在的な情報処理の結果生じた身体反応が重要な役割を持っている可能性を検討し、更にこれに関して進化的な背景による男女差が存在するかについても検討することを目的とした。今年度はまず研究の基礎固めとして、先行研究の実験結果が再現できることを確認し、さらにそれが別の刺激や課題にも般化できる可能性を検討した。Shimojo. Simion, Shimojo, & Scheief (2003)は、選好判断時に判断の600ms前程度から選択刺激上に視線が偏っていくという環象(視線カスケード現象)を報告した, これは判断の意識的な体験に先立って無意識的な判断が成立している可能性を示すものであり、本研究の研究文脈において最も重要な先行研究のひとつである、、本研究ではこの視線カスケード現象が、正解・不正解のある課題においても生じる可能性について検討した。色と形の対連合記憶課題を実験課題とし、視線カスケードが生起するかどうか、また、回答が正解である場合と不正解である場合、更にその回答に確信がある場合と無い場合に分けて視線カスケードの大きさを比較した。実験から、対連合学習課題においても視線カスケードが生じることが示された。また、視線カスケードの大きさに関しては、確信の有無で違いは見られなかったが、不正解の場合に比べ、正解している場合の方が大きくなることが示された, このことは、意識的な判断とは一致しない、潜在的な記憶が視線の動きへと影響を与えたため、選択刺激に対する視線の偏りである視線カスケード現象が阻害されたと可能性が考えられる. この実験結果は、先行研究によって得られた知見を発展させるものであり、潜在的な情報処理過程と意識的な体験の関係性について考える上で、非常に重要な示唆を含んでいると言える。
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