研究課題
昨年度に引き続き、マウス骨格筋細胞C2C12において、遺伝子集積時期を3C解析によって評価したところ、未分化段階ですでに骨格筋特異的遺伝子群がその発現前から集積していることが明らかとなった。さらに、C2C12細胞で遺伝子集積が起こるメカニズムの解析を試みた。まず始めに、C2C12細胞における遺伝子集積が、MyoD依存的であるか評価した。本研究者らは、C2C12細胞においてMyoDのsiRNA処理による発現抑制が、骨格筋分化を抑制することを報告している(Harada et al, EMBO J, 2012)。3C解析の結果、MyoDを発現抑制した細胞では、遺伝子集積が起こらなかった。以上のことより、骨格筋において骨格筋遺伝子の遺伝子集積はMyoD依存的に形成されることが示された。MyoDは、ヒストンH3バリアントの一つであるH3.3とChd2を介して複合体を形成している。また、ヒストンH3は、様々なヒストン修飾を受けることで特徴的な遺伝子発現状態を示すことが知られている。そこで、骨格筋の未分化段階におけるH3.3上のヒストン修飾とヒストンバリアントの関係を調査した。ゲノムに取り込まれているH3.3を簡単に排除する系として、H3の主要なヒストンであるH3.1の過剰発現細胞を作製した。遺伝子集積が起こる未分化段階のC2C12細胞でH3.1を強制的に発現させた細胞は、骨格筋分化能が抑制されることが明らかとなった。そのメカニズムとして、骨格筋分化特異的な遺伝子上で、H3.1の取り込みにより、H3.3とH3K4me3修飾が減少し、H3K27me3修飾が増加していた。一方で、遺伝子のプロモーターへのH3.3の取り込み依存的に双極性修飾が起こることが示唆された。このH3.3上における双極性修飾は、マウス胚においても確認された。以上の結果は、細胞の分化能は、クロマチン上のH3.3の選択を通して確立されるという本申請者の研究提案を支持するもであった。なお、この研究結果は学会等発表を行い論文化された。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の目的であった遺伝子集積が起こる時期の特定を骨格筋ベースで行い、未分化状態で遺伝子集積が起こり、分化と伴に集積が無くなることを見出した。また、この遺伝子集積には、骨格筋細胞において、マスター遺伝子として知られるMyoDの発現が必要不可欠であった。これらの知見を論文化しNuceic Acid Reseachに受理された。また、MyoDは、ヒストンH3バリアントの一つであるH3.3とChd2を介して複合体を形成している。H3.3は、リジンやアルギニン残基にヒストン修飾を受けることで特徴的な遺伝子発現状態を示すことも広く知られている。そこで、骨格筋分化において遺伝子集積が起こっている未分化段階におけるH3.3の機能解析を行った。その結果、H3.3が分化遺伝子に取り込まれることにより、H3K4me3とH3K27me3修飾が同時に起こることが明らかとなった。一方、クロマチン上に豊富に存在するH3.1を過剰発現させると、分化の抑制とヒストン修飾状態が変化することを明らかにし論文化し、Nuceic Acid Reseachに受理された。このように、本研究課題に基づいた研究成果として論文2報を発表できたことから、当初の計画以上に進展していると判断している。
今後は、実験準備として、H3.3と結合する分化責任因子の同定を試みる。内在性H3.3抗体による因子の同定と外来性のGFP-H3.3と結合する因子との2パターンを用いて共通する因子を探し出すことで、より精度が上がることを期待している。今後は、H3.3結合因子の同定と、他の細胞や生体組織にも応用可能な、より簡便で精度の高い遺伝子集積評価系の立ち上げを行いたいと考えている。また、マウスES細胞でも、分化遺伝子上でH3.3とH3K4me3とH3K27me3修飾が同時に存在することが報告されていることから、ES細胞における遺伝子集積時期とH3.3の分化遺伝子上への取り込みとの関連を明らかにしたい。
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