研究課題/領域番号 |
13J04026
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研究機関 | 上野学園大学 |
研究代表者 |
猪瀬 千尋 上野学園大学, 日本音楽史研究所, 特別研究員(PD)
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キーワード | 中世文学 / 雅楽 / 儀礼 / 狂言綺語観 / 御神楽 / 唱導 |
研究概要 |
本年度は①日本音楽史研究所を中心とした基礎的文献の調査および目録作成、②音楽における思想面の考察、③内侍所御神楽の音楽空間の考察を中心に行った。 ①について、当研究所は音楽関係について他館所蔵の複写物も含め膨大な資料を有している。一方で未整理なものも多いため、まず基盤となる作業として、それら音楽資料群についてそれぞれの書誌をとり、目録をデータ化することを試みた。具体的には魚山叢書や綾小路家伝来の楽書群についての入力を中心に行った。外部調査においては、笙の家として知られる山科家の旧蔵資料を中心に、京都大学、同志社大学などで調査を行った。②では、音楽・音声空間の考察において、その背景となる思想的側面へのアプローチをこころみた。具体的には中古中世における主要な文芸観である狂言綺語観に焦点をあて、こうした狂言綺語の句を含む伽陀や朗詠が、様々な儀礼で演奏される実態を明らかにした。また信西一門における妓女舞や弥勒講、及びそこにあらわれる狂言綺語観との関係についても考察した。この成果については仏教文学会で発表し、『仏教文学』39号に報告した。③では、特に三箇夜内侍所の考察を中心に行った。三箇夜内侍所御神楽は、神祇の存在や兵革における追討御祈など、王権と深く関わる儀礼と考えられ、その儀礼空間を読み解くことによって、音楽の持つ王権における象徴性が究明できると考えた。中世に行われてきた三箇夜内侍所御神楽の開催例および曲目について一覧化し、後醍醐天皇が秘曲「昼目」を視覚的にも特殊な形で演奏していた事実を明らかにした。この成果については藝能史研究会東京例会に報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新しい研究環境にあって、特別研究員としての立場(どこまで受入研究機関と連携していけば良いのか)を明確にすることができず、研究の見通しが立たない一年となった。学会発表についても、研究計画のもとに幾つか発表はできたものの、準備について不十分と思われる点が多かった。一方で、資料調査においては、目録作成を通じて、音楽資料の書物体系を把握できるようになり、今後の研究における一つの指針を築くことができた。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度における研究の停滞は、所属機関を変えるにあたって、自身の準備が不十分であったことに起因するものである。2014年度においては、一年を通しての学会発表および論文執筆の予定を立て、資料調査においても日取りを確実にしておくことで、自身の進捗状況について常に点検できるような状態を目指し、研究課題の遂行につとめたい。合わせてテーマとした「音楽・音声空間」についても、それがどのような論理のもとに構成されるのか、これまで発表してきた論文について再検討、および今後の発表・論文における関連づけを通して、より明確なものとしたい。
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