研究課題/領域番号 |
13J04037
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
岡村 将也 総合研究大学院大学, 物理科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 人工光合成 / 多核錯体 / 酸素発生反応 / プロトン共役電子移動 |
研究実績の概要 |
これまでに、安価で豊富に存在する鉄イオンを用いて、高い触媒活性を示す錯体触媒を初めて見出した。本発見は、今後の人工光合成の発展や触媒設計戦略の指針となる重要な成果であるが、比較的過電圧が高いという問題点があった。その原因の一つとして、錯体の電荷上昇が挙げられる。そこで、酸化と共にプロトンが解離するプロトン共役電子移動(PCET)を利用することにより、電荷の上昇を抑え酸化電位を下げることを目指した。具体的には、プロトン供与サイトを有する3,5-bis(2-benzimidazolyl)pyrazole (H3bip)を配位子として、新規5核錯体を合成した。サイクリックボルタンメトリー(CV)を測定した結果、酸化電位が低電位シフトしていることが分かった。また、このプロトンの解離が電子移動と協奏して起きるかどうかを調べるため、水溶液中でpHを変化させながらCV測定を検討した。しかし、本錯体は水に対する溶解度が非常に低く、有機溶媒と水の混合溶媒でも錯体がほとんど溶解しないことが分かった。そこで、錯体を電極表面に修飾することで、水溶液中での測定を可能にする方法を試みた。様々な方法を試した結果、最適な方法としてナフィオンを用いて錯体を電極に担持する手法を用いた。得られた電極を用いてpHを変化させながら測定を行った結果、pHに依存してピークが低電位シフトすることが判明した。得られた各pHにおける電位をプロットしたプルーべダイアグラムを作成し、電位とpHにおける錯体の酸化とプロトン解離の状態を明らかにすることに成功した。以前の錯体は電位にpH依存性がないが、新規錯体は電位にpH依存性が発現し、4電子酸化体の生成電位をpH6では0.6 V以上低い酸化電位で生成することが可能となった。その上、錯体の酸化電位のみではなく、酸素発生の触媒電流の開始電位においても低電位シフトが観測され、低過電圧で駆動する酸素発生触媒として期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでに問題として浮上した新規鉄5核錯体の水に対する低い溶解度は、ナフィオンを用いた電極への担持法を見出すことによって首尾よく解決することに成功した。その結果、錯体の電気化学測定をpHを変化させながら行うことが可能となり、得られたサイクリックボルタンメトリーのpH依存性から、錯体の電位がpHに依存して低電位シフトすることが明らかにした。これは、当初の戦略通りに錯体がPCETを発現することを示しており、非常に重要な結果として研究の大きな進展である。さらに、酸素発生の過電圧にもpH依存性が生じることが判明し、低過電圧で駆動する酸素発生触媒の実現が示唆されている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、鉄5核錯体の触媒反応によって生成した酸素発生量を定量するため、定電位電解を行う。反応セルは従来から使用していうイオン交換膜によって隔てたH型のセルを利用し、酸素ガスの定量はガスクロマトグフィーを使用する。用いる緩衝溶液の種類、印加電圧、錯体の電極への担持法など測定の方法や条件を検討する予定である。また、サイクリックボルタンメトリーによってpH依存性が観測されているため、溶液のpHが発生する酸素ガスの量に与える影響などを調査する。
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