研究課題/領域番号 |
13J04057
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
齋藤 実穂 東京工業大学, 理工学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 磁気圏物理 / 磁気圏尾部 / 電流 / サブストーム / プラズマシート / 同時多点観測 |
研究実績の概要 |
「地球と太陽(太陽風)の相互作用からどのような物理過程で、オーロラ現象が引き起こされるのか」、その過程を明らかにするために、人工衛星の観測データの解析を行った。これまで調べることが難しかったオーロラ現象の源の構造、特に電流層の構造を調べることから、プラズマ物理を用いた説明を試みた。THEMIS衛星群を用いた電流観測から、「磁気圏尾部の電流経路」、「サブストームの発生源(起電力)」、「磁気圏のエネルギー収支」がわかるようになることが期待できる。また電流密度の構造と理論研究を合わせることにより磁気圏尾部プラズマシートが安定的に存在できるのか議論できるようにするための基礎的な知見を得ることを目指し基礎的な観測を行う。
電流構造については南北構造の統計的な性質および、サブストーム時の時間変化を明らかにした。得られた南北構造は、分岐した構造を持っていることがわかった。この分岐した特徴は、サブストーム直前直後だけのものという提案がこれまでの研究でなされていたが、多くの場合に見られる特徴であることを初めて示すことができた。この成果は、主著論文として投稿した。
電流経路の解明には、3次元磁気圏流体数値計算と比較することが有効な手段であると考えている。サブストーム開始直後の強い電流成分があるときについては、観測と数値計算に類似する点が多く見られることを確認している。サブストームの発生源については、磁気圏尾部のどこでおこるかさえ議論のある問題になっている。本研究で調べた範囲ではそれを特定することはできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度(2014年度)は、前年度に得られた統計結果を論文にまとめ、学会等で発表し、査読付き国際学術誌へ投稿した。ここまでで、本研究が明らかにしたのは、平均的な電流層の構造であるが、これからのずれがどのようにオーロラ現象と関連しているのかを調べるために、詳細な事例研究を進めている。体調不良のために学会での研究成果の発表や議論が少ない結果になったが、今年度2月から、学会誌への投稿、海外での研究打ち合わせなどを行える状況になった。年度始めに予定した研究計画に対して、以下のように研究を進めることが出来た。
1. 電流層の解析手法を評価する: 複数の人工衛星を用いて、電流密度を測定する手法を確立するために、手法の適用条件、座標系などを検討した。この結果は、投稿中の論文にまとめてある。 2. 平均的な電流層、オーロラ嵐時の電流層の構造を明らかにする:平均的な電流密度の値から大きくずれたとき、それがいつ、どのようなタイミングで起こっているのかを調べた。この点に着目して、2007年から2014年までの観測を対象に事例研究を行った。 3. 電流層の安定性の研究のための詳細な事例研究の準備を行う:来年度は、これまで観測された電流層の構造とオーロラ現象がどのような因果関係を持つのか調べ、本研究の目的である、電流構造から調べるプラズマ不安定の物理について包括的に理解していく予定である。プラズマ不安定のひとつであるバルーニング不安定について調べるために、その性質から発生が予想される事例を収集し、分析している。理論的な解釈を行うために、バルーニング不安定の理論・数値計算が専門であるPing Zhu教授(中国科学技術大学)と中国科学技術大学にて3月に打ち合わせを行った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究によって、人工衛星の多点同時観測を用いて電流構造を広範囲に観測データを取得することができるようになった。電流密度の成分は、磁力線に垂直な成分とオーロラ発光の一部となり電離層へ結合する成分がある。この2成分の関係は、複雑であり、統計的な研究からその傾向をまとめることは難しかった。これは、場所による依存性が大きいためと考えられる。本研究では、時系列の観察から研究することで対応したが、まだ説得のあるモデルの構築とデータによる検証には至っていない。
この研究で得られた電流構造がどのように生成したのか、安定して存在できるのか、まだ理論的に説明できていない。プラズマシートの安定性の議論には、粒子観測を合わせた特徴を総合的に理解する必要があり、今後の課題である。この研究では磁場観測に主点をおき、いくつかの電流シートの形状と変化を提案することができたが、これらを粒子観測、数値計算モデルなど他の方法で検証することも今後の課題である。
そのために、国内外の学会での研究成果の発表と理論研究者との議論に多くの時間を使えるように研究計画をたてる予定である。
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