研究概要 |
本年度は, 自家蛍光による細胞の動態観察, 蛍光体の選定, 電子線励起条件の最適化および分解能評価, 高フレームレートでの観察, そして細胞試料へのダメージ評価の5点について調査した. 電子線による細胞試料へのダメージは依然大きな課題であるが, 細胞内顆粒の動態をタイムラプス動画で観察した. また, Triton-Xによる細胞膜の溶解処理を施すことで, ストレスファイバー構造の自家蛍光像を取得できた. 上記内容をBiomedical Optics Expressへ投稿した. また, 細胞内顆粒の動態観察結果は2014年2月1日に出版された同雑誌の表紙カバーに採用された. 試料ダメージを低減するには電子線照射量を抑制する必要があるため, より高効率に発光する蛍光体が必要となる. 蛍光体としてはZnO粒子と蛍光性ナノダイヤモンド(Fluorescent nano diamonds, FNDs)を採用した. これらの発光強度は細胞の自家蛍光の7倍以上であるため, 生体試料への標識に応用できる. 直径50nm程度のZnO粒子を用いて分解能評価を行った結果, 電子線の集束スポットは57nm程度であることがわかった. 高フレームレート観察では, 水中でのZnO粒子の動態をビデオフレーム(30fps)で観察することに成功した. また, 赤色と緑色にそれぞれ発光するFNDsを細胞内に取り込ませ, それぞれの分布を同時かつ高空間分解能に観察することに成功した. この結果は, 本手法により細胞試料の多重染色観察が可能であることを示した. 研究成果をChemPhysChemへ投稿し, 掲載された. 細胞膜の損傷を調べるため, エチジウムホモダイマーとカルセインを用いて, 電子線を照射しながら光学顕微鏡で観察した. しかし電子線によるダメージが大きいため, ダメージを定量するにはさらに電子線照エネルギーを抑制する必要があることが分かった. 抑制のための検討を現在も継続中である.
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今後の研究の推進方策 |
試料内での電子線の透過長, つまり観察可能な深さを実験的に求める. 当初は水中での電子線散乱をカンチレバー等を用いて計測する予定であったが, まずは共焦点顕微鏡による細胞の観察結果と比較することで, 電子線の細胞内での透過深さを計測する. ダメージ評価に関しては, 温度インジケータや細胞内の代謝をモニタリングできる試薬を用いて複数の視点から評価を行う.
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