含ホウ素ナノグラフェン分子のルイス酸性を利用して、新たな溶液プロセスによる有機薄膜トランジスタ素子作製の手法を開発した。用いたトリナフチルボラン誘導体は、強いパイスタックに起因して、有機溶媒に対する溶解性に乏しい。一方で、ルイス塩基であるピリジンを含んだ溶媒に対しては、ピリジンと錯形成しパイスタック構造が阻害されるため、溶解性が劇的に向上することを見出した。得られたピリジン錯体の溶液を用いることで、スピンコート法により、ピリジン錯体の薄膜を作製することができた。さらにピリジン錯体の薄膜は加熱操作によって、ホウ素に配位するピリジンを除去することができ、元の三配位ボランの結晶性薄膜へと変換することができた。得られた三配位ボランの薄膜を用いて、有機薄膜トランジスタ素子を作製したところ、正孔をキャリアとするp型の電荷輸送特性を示した。低コスト、低温条件かつ大面積での素子作製を実現する上で、材料の溶液プロセス適性は重要である。今回の結果はルイス酸性を示す含ホウ素縮合多環式分子が汎用的な塗布型有機半導体材料となりうることを示した結果である。 また、前年度に見出したホウ素ピリジン錯体の光解離を発展させるために、励起状態におけるホウ素のルイス酸性の変化を分子構造修飾により制御することに取り組んだ。トリアリールボラン部位に強い電子アクセプターであるナフタレンジイミド部位を導入した誘導体を合成し、光物性の詳細を検討した。その結果、基底状態におけるルイス酸性に大きな変化が見られなかった一方で、励起状態における解離挙動が観測されなくなった。これは、電子アクセプターの導入により、励起状態におけるルイス酸性が大きく向上したためであると考えられる。この結果は、有機ホウ素化合物の錯形成ダイナミクスにおける新たな知見であり、新たな光応答性材料の開発に繋がると期待される。
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