研究課題/領域番号 |
13J04118
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
冨田 恭子 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | Adベクター / 免疫寛容 / 肝臓 / 免疫応答 |
研究概要 |
Adベクターを生体に投与すると、搭載遺伝子産物に対する抗体の産生によりAdベクターの組織へのデリバリーが阻害され、細胞傷害性T細胞(CTL)の誘導により搭載遺伝子発現細胞が排除されることで搭載遺伝子産物の持続的な発現が得られなくなってしまう。本研究では、外来抗原に対する免疫寛容を誘導しやすいという肝臓の特徴的な性質に着目し、Adベクターによる肝臓への遺伝子導入を行うことで搭載遺伝子産物に対する免疫応答を抑制、ひいては免疫寛容を積極的に誘導することで、長期的な遺伝子発現を実現可能なAdベクターを開発することを目指している。肝臓での搭載遺伝子の発現を維持しつつ、免疫担当細胞が多く存在する脾臓における発現を抑制するために、搭載遺伝子を肝臓特異的プロモーター(AHAプロモーター)制御下で発現するAdベクターを用いることとした。また対照としてユビキタスなプロモーター(CMVプロモーター)を用い、モデル抗原としてLacZ遺伝子を発現するそれぞれのAdベクター(Ad-AHA-LacZ, Ad-CMV-LacZ)を作製し、検討に用いた。 これら2種類のAdベクターをマウスに投与後、β-galに対する免疫応答について評価したところ、脾臓および肝臓のリンパ球においてAd-CMV-LacZ投与群ではIFN-γ+の表現型を示すβ-gal特異的なCTLの誘導が認められたが、Ad-AHA-LacZ投与群ではβ-gal特異的なCTLの誘導がほとんど認められず、PBS投与群と同程度であった。また抗β-gal抗体の産生についてもAd-CMV-LacZ投与群では認められたが、Ad-AHA-LacZ投与群では全く認められなかった。一方で、Adベクター自身に対するCTLおよび抗体についても同様の検討を行ったが、これらはプロモーターの種類に関わらず誘導されていた。以上の検討により、肝臓特異的プロモーターによって搭載遺伝子を発現するAdベクターを生体に投与した際には、搭載遺伝子産物特異的な細胞性および液性免疫応答が誘導されないことが示された。 一方で、抗原提示細胞での搭載遺伝子発現を抑制するストラテジーとして、microRNAによる遺伝子発現制御システムを利用した検討を行った。血球細胞で高発現しているmicroRNAであるmicroRNA-142.3pの完全相補配列を、搭載遺伝子の3'非翻訳領域に挿入したAdベクター(Ad-CMV-LacZ-miR142.3pT)を用いた検討も行ったところ、Ad-CMV-LacZと比較し、本ベクター投与による脾臓におけるβ-gal発現量の抑制が認められず、抗β-gal抗体の産生も抑制できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規の実験系の構築を行い、基礎となるデータの取得も十分に行った上で目的の事象の解明に真摯に取り組んだ。目的を達成するための手段として2種類の異なるストラテジーに基づくAdベクターを作製し研究に取り組んだが、片方のAdベクターでは期待通りの結果が得られなかったが、条件検討を重ね改善を図った。またもう一方のAdベクターでは研究目標達成に近づく新たな知見を見い出すことができ、全体として年次計画通りに研究を遂行することができた。
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今後の研究の推進方策 |
Adベクターの搭載遺伝子をAHAプロモーターにより肝臓特異的に発現させることで搭載遺伝子に対する免疫応答が誘導されなかったことが、β-galに対する免疫寛容の成立によるものかどうかを確認するため、追加免疫実験により確認していく予定である。Ad-AHA-LacZによりβ-galに対する免疫寛容が誘導されていれば、追加免疫を行っても抗β-gal免疫応答は誘導されないと考えられる。そこで今後は、初回免疫としてこれまで用いてきたAdベクターを投与し、免疫寛容が成立したと考えられる時期にβ-galタンパク質をフロイントの完全アジュバントとともに投与することにより追加免疫を行い、免疫応答が誘導されるかどうか検討を行う。その後、免疫応答が誘導されないメカニズムについて詳細な解析を進めていく。
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