研究課題/領域番号 |
13J04145
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
長澤 麻央 九州大学, 生物資源環境科学府, 特別研究員(DC2)
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キーワード | うつ病 / アミノ酸代謝 / Wistar Kyotoラット / シスタチオニンβシンターゼ / 小脳の萎縮 |
研究概要 |
本年度は、L-セリン単回投与によって誘導される抗うつ様効果の作用メカニズムの解明とうっ病モデル動物としての可能性が示唆されているWistar Kyotoラットにおけるうつ様行動発症メカニズムの探索に関する研究を行った。 これまでに、レセリンの単回投与が、うつ様行動を評価する試験である強制水泳試験において抗うつ様効果を示すことを明らかにした。L-セリンの代謝産物であるD-セリンは、NMDA受容体の活性化を介して抗うつ様効果を誘導することがすでに報告されている。そこで、L-セリン単回投与によって誘導される抗うつ様効果がD-セリンを介した反応であるかを検証するために、L-セリンとNMDA受容体アンタゴニストであるMK-801の同時投与後に強制水泳試験におけるうつ様行動を評価した。L-セリンと同時にMK-801を投与しても、強制水泳試験においてL-セリン誘導性の抗うつ様効果が消失することはなかった。そのため、L-セリン誘導性の抗うつ様効果はD-セリンを介さない反応である可能性が示唆された。この結果は、L-セリン自身が独自の作用経路を介して抗うつ様効果を発揮するという新たな仮説を提唱するものである。 これまで、Wistar Kyotoラットにおいて、L-セリンをシスタチオニンに代謝する酵素であるシスタチオニンβ-シンターゼ(CBS)の遺伝子発現量が小脳において低下していることを明らかにした。過去の報告より、脳内でCBSをノックアウトしたマウスにおいて小脳の萎縮が確認されており、小脳の萎縮した動物では行動量が低下することが明らかとなっている。そこで、「自発運動量の低下」といううつ様行動を示すWistar Kyotoラットにおいても、小脳でのCBSの遺伝子発現量の低下によって小脳が萎縮し、自発運動量が低下していると仮説を立て、この仮説の検証を行った。事実、Wistar Kyotoラットは通常動物であるWistarラットと比較して小脳の萎縮が確認された。この結果は、うつ病モデル動物における小脳の萎縮という新たな問題点の提起に繋がった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定であるL-セリンの作用メカニズムに関する研究は順調に進んでいる。また、当初の予定にはなかったが、うつ病モデル動物において、小脳が萎縮しているという新たな知見も得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究では、L-セリン単回投与による抗うつ様効果は、L-セリン独自の経路を介して抗うつ様効果を誘導している可能性が示唆された。ただし、詳しい作用メカニズムに関しては不明なままである。そこで、次年度では、L-セリン誘導性の抗うつ様効果に関して、具体的な作用メカニズムの解明を行う予定である。また、うつ病モデル動物であるWistar Kyotoラットにおいて小脳の萎縮が確認されたが、小脳のどの領域で萎縮が誘導されているかは不明なままである。そこで、次年度では、小脳の萎縮に関連している脳領域の特定を行う予定である。
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