研究課題/領域番号 |
13J04195
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大谷 崇 早稲田大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | ルーマニア / 思想史 / エミール・シオラン / ミルチャ・ヴルカネスク / ミルチャ・エリアーデ / ナエ・イオネスク / ペシミズム / 歴史哲学 |
研究概要 |
平成25年度においては、戦間期ルーマニアのナショナリスティックな思想的コンテクストの解明のため、9月-10月間にルーマニアに滞在し、研究に必要な文献を調査した。 本年度は、上記調査までに利用できた文献の関係上、まずはフランス時代のシオランの思想に限って研究を遂行した。その上で憎悪とペシミズムというテーマに着目し、当初実際上の暴力を伴った憎悪が、その深まりとともに逆に暴力を消滅させていくこと、その憎悪の運動の原動力がペシミズムであることを確認した。これはシオランのペシミズムの哲学の可能性を考える上で契機となりうるものであり、また彼の思想の発展史的理解においても、ルーマニア時代の「生の哲学」からの変化をどう考えるかという点において重要なものである。次いで文献調査の成果を利用しつつ、同世代の哲学者ミルチャ・ヴルカネスクとシオランとを比較検討した。ルーマニア時代の著書『ルーマニアの変容』でルーマニアの過去とそれを称揚する伝統主義者を否定し、ルーマニアを歴史の流れに参入させようとするシオランに対して、ヴルカネスクはそれに反対する。ヴルカネスクはルーマニア民族の、西欧のそれとは分かたれた永遠の本質・固有の民族的特性の存在を主張し、そこから脱却させようとするシオランの試みを非難するが、しかし同時にヴルカネスクは、ルーマニア民族・文化を歴史的なものとして把握しており、本研究員はここに歴史と永遠の緊張関係があることを明らかにした。このことはヴルカネスクが自らの師であるナエ・イオネスクの思想から自身を引き離そうとしたことに起因しているが、ミルチャ・エリアーデも指摘しているように、そのナエ・イオネスクにおいても神学と歴史哲学の間に緊張関係を宿している。以上の歴史と永遠という対立を軸に、次年度においてもルーマニア民族とその民族性をめぐる言説の研究を、特に政治への発展性に留意して進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海外渡航による調査前に利用できた文献に限りがあったことから、第一年次の研究予定に部分的に遅れが出たが、その代わりに第二年次・第三年次に予定していた研究の一部を先取りして着手したことを考慮すると、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度以降も引き続きルーマニアに滞在し文献を調査しつつ研究を遂行する。特に1930年代の新聞・雑誌に焦点を合わせ当時の知的環境に解明に努める。
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