本研究課題は、17世紀中国の思想家である黄宗羲(1610年-1695年)の思想と、その代表的著作『明儒学案』について、当時の政治・社会・学術等の具体的状況に即して検討するものであった。昨年度は、清王朝の支配が確立していった康煕年間(1662年-)における黄宗羲の学問活動と学問観を中心に研究を実施した。本年度は昨年度の成果を踏まえて、『明儒学案』に関する資料を収集すると同時に、『明儒学案』の編纂と関係する黄宗羲の学問活動、具体的には『明文案』編纂とその基盤としての詩文観、そして黄宗羲の科挙観について研究を実施した。本研究を進めるため、平成26年4月6日から平成26年7月31日まで、中国上海・復旦大学哲学学院で呉震教授の指導の下、研究を遂行した。この期間に北京国家図書館で姜希轍『理学録』マイクロフィルムを調査した。姜希轍『理学録』は近年彭国翔氏によって紹介され、黄宗羲『明儒学案』に影響を与えていると指摘されている編纂物であり、今後報告者は本調査の成果を活かして『明儒学案』の研究をまとめていく予定である。また、同じく中国渡航中に、浙江図書館で『明文案』稿本を調査した。平成26年9月には、中国語の論説「論黄宗羲的思想――従劉宗周思想的接受到“自得”的重視」が『浙東文化研究』第一輯に掲載された。これは、昨年度中国寧波市で開催された“多維視野下的浙東文化”学術検討会で発表した内容を一部加筆修正したものである。また、黄宗羲の詩文観に関する研究成果を「黄宗羲の詩文観--「性情」重視と模倣批判の論理--」と題した論文にまとめ、平成27年2月に『集刊東洋学』113号に投稿した。黄宗羲の科挙観に関しては、平成27年3月18日に応用科挙史学研究会第14回研究集会において「黄宗羲の詩文観と科挙論」と題して発表した。
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