研究課題/領域番号 |
13J04251
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉村 瑶子 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | スピントロニクス |
研究概要 |
本研究の目的は、垂直磁化Co/Ni細線中の磁壁の電流駆動における外部磁場の影響を調べ、応用上重要である外部磁場耐久性を向上することである。この目的を達成するために、外部磁場を印加した状態で、Co/Ni細線中の磁壁の電流駆動実験を行い、磁壁移動速度と外部磁場の関係について調査してきた。その結果、磁壁移動速度の面内磁場依存性にあたかもオフセット磁場が存在しているかのような正負非対称性が存在することを発見した。この正負非対称性の原因が解明されれば、デバイスの動作速度に結びつく磁壁移動速度と外部磁場の関係を明らかにでき、応用上重要な知見を得ることができる。研究実施計画では、今年度は磁壁移動速度の垂直磁揚依存性に関する研究を行う予定をしていたが、内容を変更し、面内磁場依存性に関する研究を行った。磁壁のポラリティを変えて実験を行った結果、磁壁移動速度の面内磁場依存性が磁壁のポラリティに依存することが分かった。この結果を手がかりに、磁壁の歳差時間に対する面内磁場の影響に関してシミュレーションを行ったところ、歳差時間も磁壁のポラリティに依存することを見出した。これらの結果より、磁壁移動速度の面内磁場依存性に正負非対称性が存在する原因が、スピンホール効果に依るものであることが示された。磁壁電流駆動に対する面内磁場の影響を明らかにした本研究は、次世代磁気メモリへの応用に向けて少なからず貢献できたと考える。研究代表者は本研究成果を応用物理学会が発行するApplied Physics Express誌に論文発表し、国内外の学会において発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の最終目標は、磁壁の電流駆動現象を利用した外部環境に強い磁壁デバイスを実現させることである。研究代表者は、垂直磁化Co/Ni細線中の磁壁電流駆動実験を面内磁場下で行うことで、磁壁の移動にスピンホール効果が寄与していることを明らかにした。本実験結果は、応用上重要な磁壁の移動に対する面内磁場の影響を調査しただけでなく、物性物理の観点から重要な磁壁ダイナミクスの解明にも繋がった。スピントロニクスに新たな知見を与えた今年度の実験結果は、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
磁壁テバイス実現のためには、磁壁の移動時間を実時間で測定することは必須である。しかし研究代表者がこれまで行ってきた測定手法では、磁壁移動の実時間観察は不可能であった。そこで、磁壁移動を実時間で観察する実験装置を構築した。この実験装置を用いて、最近注目を集めている磁壁の移動に対するジャロシンスキー・守谷相互作用の影響について調査していく予定である。研究計画では、磁壁電流駆動の面内磁場に対する安定性を高めることであったが、今年度の研究成果により、面内磁場の影響は明らかになった。外部磁場に対して安定に動作する磁壁デバイス実現に向けて、まずはジャロシンスキー・守谷相互作用の存在する系としない系に着目し、どちらが有用であるかを調査していく。
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