針葉樹であるイヌマキに内生するPestalotiopsis属子嚢菌より単離されたpestaloquinol AおよびBは、テルペン複合型のエポキシキノイド二量体天然物である。活性としては、HeLa細胞に対する毒性を有することが報告されているのに対し、テルペン単位を欠く類似構造を有する天然物(epoxyquinol類)は、抗がん剤開発ターゲットのひとつである血管新生を阻害する活性を有することが知られている。そのため、pestaloquinol類にも医薬品リード化合物として有望な活性があるのではないかと期待し、詳細な活性評価のための標品供給を視野に入れたpestaloquinol類の全合成研究を実施している。 Pestaloquinol類は同時に単離されたcytosporin Dの酸化を伴う二量化反応により生合成されると考えられていることから、この予想生合成経路を模倣した二量化反応による全合成を試みるために、まずはcytosporin Dの合成を目指した。 合成にあたり、3つのステップ、すなわち①含酸素6員環部位の構築②Diels-Alder反応による二環性骨格の構築③Stilleカップリング反応による側鎖の導入を経ることとした。ラセミ体を用いて合成経路の確立に向けた検討を進めた結果、既知化合物より19工程でcytosporin Dの全合成を達成した。得られたcytosporin Dに対し、酸化剤を用いた生合成模倣的な二量化反応を試みたが、現在までにpestaloquinol類の生成は確認できていない。
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