ルテニウム錯体触媒によるアルケニルエステルを用いた芳香族化合物の直接アルケニル化反応に関する機構解明を行った。また、得られた知見に基づき、アルケニルエーテルやアルケニル炭酸エステルをアルケニル化剤として用いた新規炭素-炭素結合生成反応への展開を行った。更に、この過程で様々なトリアリールボスフィン配位子を有する新規ルテニウム錯体群、RuHCI (CO)(PAr_3)_3およびRuH_2 (CO)(PAr_3)_3の効率的な合成法を開発した。得られた錯体の反応性に関する調査を行ったところ、従来の錯体では困難だった、立体的に混雑した芳香族炭素-水素結合に対する、配向基による位置選択的なアリール化反応が進行することを見出した。 これまで明らかになっていなかったアルケニル化の詳細な反応機構を明らかにする事で、触媒サイクルにおける各素過程や中間体などに関する多くの知見を得た。特に、これまで配位子として用いられる事の無かったフェニルピリジン誘導体が配位子として機能している点は新規性の高い知見のひとつと言える。これらの成果は、今後新規触媒反応を設計する上で、意義のある様々な基礎的知見を提供したと言える。 従来の芳香族化合物の直接アルケニル化反応の場合、多くの場合で添加剤などが必要であったが、今回開発したアルケニル炭酸エステルをアルケニル化剤として用いた反応の場合、反応後の副生成物は対応するアルコールと二酸化炭素のみである。そのため従来法と比較すると、より中性に近い条件で反応を行うことが可能になり、反応系中に共存することのできる官能基選択の範囲が大きく広がり、様々な化合物を効率的にアルケニル化する事ができる。従って今回開発した反応は、芳香族化合物の触媒的な直接アルケニル化における重要な例のひとつと言える。
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