ニュートリノは質量を持つ素粒子であるということが確認されているが、現在のニュートリノ振動実験の結果からは、3世代あるニュートリノの質量がどのような大きさの順になっているのか(質量階層構造と呼ばれる)ということは判明していない。このニュートリノの質量階層構造を決定することは、現在の素粒子の標準模型を越えた新しい物理理論を構築する上で必要不可欠な情報である。このようなニュートリノの性質を探る手法として、ニュートリノが宇宙の密度ゆらぎに与える影響を測定するという、宇宙観測を利用する方法が存在している。 以上の背景の元で私の行っている研究は、宇宙が再電離する時期に中性水素原子が放射する21cm線放射の観測を利用して、宇宙の密度ゆらぎを測定することにより、ニュートリノの質量階層構造がどの程度の精度で決定できるのかについて定量的に評価することである。本研究では前述した目的を達成するため、平成26年度に以下の研究を行った。
1.1年目で開発した将来の21cm線観測実験がニュートリノ質量階層構造に対して持つ観測の精度を評価する統計的手法(フィッシャー解析)の計算コードを利用し、21cm線観測と宇宙マイクロ波背景放射(CMB)という2つの異なる観測を組み合わせた場合に、ニュートリノ質量和及び質量階層構造がどの程度制限可能かについて評価を行った。
結果として、SKAの様な将来の21cm線観測とCMBの観測の組み合わせによって、ニュートリノの質量階層構造を決定できる可能性があるということが判明した。
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