研究概要 |
真社会性昆虫は女王が繁殖を行いワーカーがそれ以外の仕事を行う繁殖分業によって社会を形成している, しかしながら, ワーカーも交尾はできないが単位生殖によって将来オスになる未受精卵を産卵する事ができる. このため, いくつかの種では女王が死んだのち, ワーカー間で順位行動が頻繁に起こり, 高順位ワーカーが産卵権を獲得する. このように女王の存在情報(女王シグナル)はワーカーの生理状態を生理活性の動態レベルで制御し, コロニーの繁殖分業を成立される上で重要な役割を担う事が近年ミツバチなど用いた研究において明らかになっている. しかしながら, アリ類でこのような研究例は少ない. 日本産トゲオオハリアリでは, 女王を人為的にコロニーから除去するとわずか数時間でワーカー間の順位行動の頻度が増加する事が先行研究で明らかになっている. この結果は, 女王シグナルがワーカーの生理活性物質の動態に影響を与える事を示唆する. 25年度では, 生理活性物質としてワーカーの脳内アミン濃度に着目して女王シグナルと脳内アミン濃度の関係について調べた. また, 本種において女王存在コロニーであっても順位行動は起こり, 直線的な順位関係が形成される事が知られている. 順位制はグループの安定化に寄与すると考えられている. 本種のように多くの個体が参加する事で形成される順位制における, 直線的な順位形成の至近メカニズムを明らかにするために, ワーカーの順位と脳内アミン濃度の関係について調べた. 得られた結果から, 女王とワーカー間の相互作用を通した繁殖分業維持の至近メカニズムに迫れると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は以下の2つに焦点を絞って実験を行う. ・ワーカーの脳内アミン動態 : 課題として, 去年度明らかになったドーパミンの役割りについて, 薬理実験によってその機能を探る必要がある. 具体的にはワーカーヘアミンを直接食わせる方法とドーパミン受容体に直接作用するアンタゴニストを食わせる方法を併用して, ワーカーの行動, 主に攻撃性がどのように変化するか調べる. ・順位ネットワークの頑健性 : トゲオオハリアリで見られた直線的な順位行動が特定の個体を取り除いた時にどのように変化するのか, 行動観察とネットワーク解析を用いて詳細に調べる.
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