アリやミツバチなどの真社会性昆虫は繁殖を行う女王と労働を行うワーカーの間で繁殖分業が成立している。しかしながら、多くの種でワーカーも交尾はできないが卵巣を保持しており交尾はできないが繁殖可能である。このような状況下で、どのようにワーカー繁殖が抑制されているのを理解する事は、繁殖分業の維持メカニズムの進化を理解する上で重要である。 これまで、様々な社会的相互作用ワーカーの卵巣発達を抑制する機構であることが知られており、これらについての行動的あるいは化学的側面の理解は進んでいるが、これら外的要因がワーカーの生理状態を調節する内的因子にどのような影響を与えるのかについての知見はほとんどない。本研究では、日本産トゲオオハリアリを用いて社会的相互作用 (攻撃的順位行動と女王接触刺激) とワーカーの内的因子、特に生体アミンの関係について調べた。その結果、社会的相互作用がワーカーの脳内ドーパミン濃度を下げる効果を持つことがわかった。生体アミンの一種であるドーパミンはアリを含む真社会性ハチ目昆虫において、生殖腺刺激ホルモンとして働くことが先行研究の結果より知られている。したがって、本研究の結果は、社会的相互用によるワーカーの脳内ドーパミンレベルの制御が、繁殖分業維持の生理的基盤である事を示唆するものである。
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