研究課題
昨年度前半は、原子核の最も基本的な性質である核半径と変形度に着目し、平均場模型による解析を行った。原子核を球形と仮定する計算(Spherical Woods-Saxon ; SWS)では反応断面積の実験データを全く再現しないが、変形を考慮した計算(Deformed Woods-Saxon ; DWS)は実験データを非常によく再現した。このことから、中性子過剰Mg同位体の反応断面積は変形が本質的であるといえる。しかしその一方、ドリップラインごく近傍核である^<37>Mgに関しては、変形を考慮したDWS計算でさえ実験データを再現することができず、理論と実験データとの間に有意な差が見られた。これは^<37>Mgがハロー構造(芯核の周りに中性子が薄く広がった構造)を持つことを示唆している。実際、この原子核に対してハロー構造を持つようにモデル化した計算(DWSの芯核+1中性子)を行った結果、実験データを再現した。^<37>Mgに対するこの解析結果は実験グループの論文に共著として掲載され、現在、Physical Review Letters誌に投稿中である。昨年度後半は、Mg同位体に対する詳細な性質(スピン・パリティ、エネルギーなど)に注目し、反対称化分子動力学法(AMD)による計算結果の分析を行った。スピン・パリティ及びエネルギーに関して、実験データの存在する^<34>Mgまでは理論が実験データを完壁に再現しており、この理論がMg同位体の解析に十分信頼できることを確認している。反応断面積のデータに対しても、純微視的に構築された枠組みの計算が実験データを全体的によく再現している。しかしながら、^<37>Mg及び^<38>Mgに対しては、平均場模型による計算同様、実験データを過小評価した。これはAMDが予言する基底状態のスピン・パリティが実際のものと異なり、その結果、波動関数が広がることができず、実験データを過小評価していることが考えられるが、これは今後の課題とする。ここまでの理論解析は第1著者として論文にまとめ、現在、Physical ReviewC誌に投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
ドリップライン近傍の原子核は「ハロー構造」を示す可能性があり、実際、昨年度解析した^<37>Mgに関しては、ほぼ間違いなくハロー構造を持つことが分かった。ハロー核の解析には大きな模型空間が必要で計算が困難になることはあらかじめ分かっており、ハロー核を除いた原子核に対して十分な結果が得られたため。
今後は、^<37>Mg, ^<38>Mgの解析と並行し、現在実験解析中であるNa、A1同位体にこの手法を適用し、実験データとの直接比較から、これら原子核の性質を探っていく。これまでは、ある原子核単体の性質に注目して解析してきたが、Na、A1同位体の理論的解析を行った後は、先行研究の^<20-32>Neの解析結果と合わせ、この軽い中重核領域全体を俯瞰的に理解していく。そして、island of inversion におけるshellevolutionの起源を解明することが最終目標である。
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EPJ Web of Conferences Vol. 66 (2014)
巻: 66 ページ: 03095-1-4
10.1051/epjconf/20146603095