微視的反応・構造理論による不安定核構造の系統的解明

2014 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13J04319
• 研究機関: 九州大学
• 研究代表者: 渡邉 慎 九州大学, 理学府, 特別研究員(DC1)
• 研究期間 (年度): 2013-04-01 – 2016-03-31
• キーワード: 中性子過剰核 / 中性子ハロー / 畳み込み模型 / 反対称化分子動力学 / 原子核反応 / 不安定核

研究実績の概要

本年度は、反対称化分子動力学法と二重畳み込み模型に基づく微視的理論を用いて、反応断面積の解析を行った。対象とする原子核は陽子数10－12 (Ne, Na, Mg) 程度の比較的軽い中性子過剰核である。これまでの研究から、ドリップラインに到達しない原子核に対しては、変形の効果を理論に取り入れることによって、系統的に反応断面積（原子核同士が衝突する確率に対応する物理量）の実験データを再現することが分かった。解析の結果、30Mg (N=18)と31Mg (N=19)の間に反応断面積の大きな飛びが、理論・実験共に確認された。さらにNe同位体に対する結果を合わせて解析すると、28Ne (N=18)から29Ne (N=19)に対しても同様の飛びがあった。これらMgやNe同位体に見られる反応断面積の飛びは、N=18からN=19にかける変形度の飛びに起因しており、ここをisland of inversionの入り口であると結論付けた。さらに、N=19で大きくなった変形はN=28まで続いていることが示唆され、この現象を我々は”Peninsula of large deformation”と名付けた。これは、従来から使われている ”Island of inversion (核図表におけるZ=10-12,N=20-22程度の領域)”の意味を改めさせるものである。
しかし一方、ドリップライン近傍核である37Mg, 38Mgに対して、我々の理論が実験データを大きく過小評価することも分かっている。これはドリップライン近傍の原子核は、変形に加えハロー構造を示すためだと考えられる。そのため、37Mgに対し、変形Woods-Saxonポテンシャルを用いた現象論的模型を適用して解析を行った。その結果、最後の中性子をp起源の軌道に詰め、弱束縛の効果を加えることで実験データを再現することが分かった。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

Mg領域においてN=19からN=28まで大きな変形が続いていることは、従来から用いられている“Island of Inversion”という言葉の認識を改めさせる可能性がある。これは分野の先頭を切る研究成果である。

今後の研究の推進方策

NaやAlの解析も進め、Island of Inversionにおける殻進化がどこまで続いているのかを解明する。本枠組みをNaやAlに適用するのは容易であり、十分な成功を見込んでいる。

研究成果

• [雑誌論文] Evidence of halo structure in 37Mg observed via reaction cross sections and intruder orbitals beyond the island of inversion (2014)
  • 著者名/発表者名: M. Takechi, S. Suzuki, D. Nishimura, M. Fukuda, T. Ohtsubo, M. Nagashima, T. Suzuki, T. Yamaguchi, A. Ozawa, T. Moriguchi, H. Ohishi, T. Sumikama, H. Geissel, N. Aoi, Rui-Jiu Chen, De-Qing Fang, N. Fukuda, S. Fukuoka, H. Furuki, N. Inabe et al.
  • 雑誌名: Physical Review C 巻: 90 ページ: 061305-1－5
  • DOI: 10.1103/PhysRevC.90.061305
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Ground-state properties of neutron-rich Mg isotopes (2014)
  • 著者名/発表者名: S. Watanabe, K. Minomo, M. Shimada, S. Tagami, M. Kimura, M. Takechi, M. Fukuda, D. Nishimura, T. Suzuki, T. Matsumoto, Y. R. Shimizu, and M. Yahiro
  • 雑誌名: Physical Review C 巻: 89 ページ: 044610-1－13
  • DOI: 10.1103/PhysRevC.89.044610
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] Breakup dynamics in 6Li elastic scattering with four-body and three-body CDCC (2014)
  • 著者名/発表者名: S. Watanabe, T. Matsumoto, K. Minomo, K. Ogata, and M. Yahiro
  • 雑誌名: Journal of Physics: Conference Series 巻: 569 ページ: 1－4
  • DOI: 10.1088/1742-6596/569/1/012048
  • 査読あり / オープンアクセス
• [学会発表] 6Li弾性散乱における4体分解反応及び3体分解反応の比較 (2015)
  • 著者名/発表者名: 渡邉慎, 松本琢磨, 蓑茂工将, 緒方一介, 八尋正信
  • 学会等名: 日本物理学会年次大会
  • 発表場所: 早稲田大学、東京都新宿区
  • 年月日: 2015-03-21
• [学会発表] Na同位体の反応計算の現状と見通し (2015)
  • 著者名/発表者名: 渡邉慎
  • 学会等名: [RIBF-ULIC-miniWS-033] Plan for Ni Reaction Cross Section Measurement and Related Topics
  • 発表場所: 理化学研究所、埼玉県和光市
  • 年月日: 2015-03-21
• [学会発表] 反応断面積の解析で探る変形及びハロー構造 (2015)
  • 著者名/発表者名: 渡邉慎, 蓑茂工将, 嶋田充宏, 田上真伍, 木村真明, 武智麻耶, 福田光順, 西村太樹, 鈴木健, 松本琢磨, 清水良文, 八尋正信
  • 学会等名: 九大研究会 -中性子過剰領域における弱束縛系の物理-
  • 発表場所: 九州大学、福岡県福岡市
  • 年月日: 2015-03-09
• [学会発表] Ground-state properties of neutron-rich Mg isotopes through reaction cross sections (2014)
  • 著者名/発表者名: S. Watanabe, K. Minomo, M. Shimada, S. Tagami, M. Kimura, M. Takechi, M. Fukuda, D. Nishimura, T. Suzuki, T. Matsumoto, Y. R. Shimizu, and M. Yahiro
  • 学会等名: Direct Reactions with Exotic Beams (DREB2014)
  • 発表場所: Darmstadt (Germany)
  • 年月日: 2014-07-02
• [学会発表] Ground-State Properties of Mg Isotopes in and beyond the Island of Inversion through Reaction Cross Sections (2014)
  • 著者名/発表者名: S. Watanabe, K. Minomo, M. Shimada, S. Tagami, M. Kimura, M. Takechi, M. Fukuda, D. Nishimura, T. Suzuki, T. Matsumoto, Y. R. Shimizu, and M. Yahiro
  • 学会等名: Advances in Radioactive Isotope Science (ARIS2014)
  • 発表場所: Tokyo (Japan)
  • 年月日: 2014-06-02
• [学会発表] Breakup dynamics in 6Li elastic scattering with four-body and three-body CDCC (2014)
  • 著者名/発表者名: S. Watanabe, T. Matsumoto, K. Minomo, K. Ogata, and M. Yahiro
  • 学会等名: State of the Art in Nuclear Cluster Physics (SOTANCP3)
  • 発表場所: Yokohama (Japan)
  • 年月日: 2014-05-28