私の研究では、18世紀フランスで物議を醸した未完の音響・映像装置の構想を掘り起こし、その生成の文化・思想的背景を問うことにより、メディアと思考様式との関係を新たな視座から描き出すことを目的としている。平成27年度は、おもに、ルイ=ベルトラン・カステル神父が構想した視覚の音楽論の研究を行った。神父は、18世紀前半に音と色彩の照応関係を主張し、それ以降、この学説にもとづき、音を「目に見えるよう」にするための装置の実現に生涯をかけて取り組んだ。カステルのこの計画は、未完とされており、謎に包まれている部分が多いが、ディドロが執筆を担当した『百科全書』「動物」や「視覚クラヴサン」の項目や、同じくディドロ著の『ダランベールの夢』のなかで、唯物論的世界観と結びつけて言及されていることから推察されるように、18世紀の文化的状況を知る上で重要な構想であったと考えられる。 カステルが自身の計画に取り組むなかで、あらゆる色彩が染色された「リボン」という形でこの計画を実現しようと試みた時期があった。私の研究では、この「リボン」の構想がどのようなものであったのかをあきらかにすることに力を注いでおり、その理論の発展に重要な役割を果たしたと考えられるリヨン・アカデミーとカステルとの交流関係にとくに注目している。今年度は、同アカデミー会員ジャック・マトン・ド・ラ・クールがカステルの計画を主題にした論考『色彩の調和について』(1736)を分析し、それがいかにカステルの理論の発展を促し、また、リヨン・アカデミーにカステルの理論を知らしめるきっかけとなっているのかをあきらかにした。この研究成果を、『百科全書』・啓蒙研究会により組織された研究大会において発表した。
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