研究課題/領域番号 |
13J04353
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
矢部 竜太 一橋大学, 大学院経済学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | ノンパラメトリックモデル / 経験尤度法 / 時系列解析 / 非定常過程 |
研究概要 |
長年に渡って共和分モデルの研究は時系列解析の中心的課題であった。しかし、近年では共和分モデルの線形性が応用上制約的であるという指摘がなされ、共和分モデルより広いモデルを考える非線形性を取り入れた様々なモデルの研究が盛んに行われている。例えば、Wang and Phillips (2009)などではノンパラメトリックな非定常回帰モデルを研究しており、局所定数推定量や局所線形推定量の漸近分布を導いている。また、彼らは推定量の漸近分布を用いて回帰関数の各点における信頼区間を提案しているが、彼らの導いた信頼区間は定義から常に推定値に対して対称となる。この信頼区間の手法は対称性のためデータが非負であるにもかかわらず、負の範囲を含んでしまうことがあるなどの問題点がある。 そこで、本年度(平成25年度)はデータに依存したより柔軟な信頼区間を求めることのできる経験尤度比を用いた手法の研究を行った。 具体的には、カーネル推定量から得られるモーメントを用いた経験尤度を構成し、経験尤度比がカイ二乗分布に収束することを証明した。この結果は、経験尤度法の分野ではWilksの定理と呼ばれており、説明変数が非定常過程に従う場合であってもWilksの定理が成立することを確認した。また、シミュレーションにより既存研究と提案した経験尤度法を比較した結果、誤差項の分布の形状によっては経験尤度法を用いた手法のほうが、受容確率と信頼区間の長さの点から優れていることがわかった。 日本のデータを用いて、賃金関数の信頼区間推定を行い、既存の手法との比較を行った。利子率が非負であるにもかかわらず、既存研究で提案されているカーネル推定量を用いた手法では信頼区間の対称性のために信頼区間に負の値が含まれる問題が確認された。しかし、本年度提案した経験尤度比を用いた方法では、この問題は発生しないことを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
経験尤度法を用いた信頼区間推定の理論やシミュレーションなどの理論的な研究だけでなく、実際の日本のデータを用いた実証研究も行うことができた。引き続き、来年度(平成26年度)の早い段階での完成を目指し、結果をまとめた論文を執筆している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度(平成25年度)に行った信頼区間推定の研究の結果を論文にまとめる。非定常過程が三次元以上のときは再帰的でないため、既存研究で扱われるノンパラメトリックモデルでは、説明変数が一変数の場合を中心に議論がなされてきた。しかし、一変量のモデルは非常に制約的であるため、実証研究への応用が極めて限られてしまう。そこで本年度では、多変量のモデルへの拡張に取り組む。ノンパラメトリックモデルを多次元的に拡張することは非常に難しいため、シングルインデックスモデルを用いた多変量のセミパラメトリック非定常回帰モデルを扱い、パラメータ推定量の漸近理論を中心に研究を行う予定である。
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