研究概要 |
本研究は, キラルイオン液体と超臨界CO_2を用い, 光学異性体の高効率な光学分割を行うシステムを構築することを目的としており, 超臨界クロマト法による分配係数測定, LSER-δモデルを用いた数値的解析, ソルバトクロミズムによる分光学的分析の研究方針3軸に関して研究成果を記す. まず分配係数測定に関しては, 当初の予定を変更し, キラルイオン液体を用いた光学異性体の分配係数ではなく, 一般的なイオン液体を用いたベンゼンの位置置換体(cresol)に関する分配係数測定に切り替えた. これは, 本研究目的を達成するための着実なステップと考えている. 実験条件は温度313-353K, 圧力6-15MPaとした. 各異性体間の分離係数(分配係数比)は異性体混合物の分離可能性を評価する重要な因子であるが, o-cresolが最も分離されやすいという結果が得られ, その最高値は1.7であった. これはo-creso1が最も揮発性が高いことに起因し, イオン液体-溶質間相互作用の差異は支配因子でないと考えられた, 光学分割に関しては後者の差異が支配因子となると考えられており, 引き続き検討を要する. つづいて, LSER-δモデルを用いた数値的解析に関しては, 本モデルが経験的なものであるため, 理論的なモデルとして摂動論型状態式の一つであるPC-SAFT (Perturbed-Chain Statistical Fluid Theory)状態式を用いたモデルを構築し, 比較した. いずれのモデルも充分な相関精度を得られており, 相関により得られたパラメータを整理して, 分子間相互作用の定量的評価を行い, 幅広い測定条件(温度・圧力・イオン液体種)における分配係数挙動の予測を可能とした. 最後に, ソルバトクロミズムによる分光学的分析に関しては, 当初使用する予定であったUV-vis検出器に不備が見つかったため遅れが生じた. 現在まで一般的な物質の吸光度測定を行い, 動作確認を終えたところであるが, 本測定をキラルイオン液体に対して行うことができれば, 上記二種の研究と関連させ有効な光学分割システム構築に向けた検討を行えると考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ソルバトクロミズムを測定するための使用装置の修理に期間を要したため一部に遅れが生じている. しかしながら, その分他の研究計画(特に, 状態方程式を用いたイオン液体・超臨界CO_2間分配係数に対する数値的解析)を推進し, 充分な結果を得られた. この両者があったことから, 総合的にはおおむね順調に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
ソルバトクロミズムの測定を中心にし, 以降も分配係数測定, モデルによる数値的解析を含めた3軸をそれぞれ並行して進める. 特にソルバトクロミズムの測定は, イオン液体純成分, イオン液体―超臨界CO_2混合系の測定を基に, キラルイオン液体―光学異性体間の3点相互作用解明に向けて研究を進める.
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