今年度は、知的障害者と家族員の「親密性」の具体的なありようを把握し、定位家族に代わる知的障害者の地域生活支援体系を構築することを目的とし、先進地域(X市、Y市)での調査、学会報告、論文投稿等を行った。 X市では昨年度の支援団体(以下、A団体)への調査を踏まえ、A団体内の家族会、親の会であるNPO法人B団体、X市障害者福祉係への聞き取りを実施した。多様な機関が連携する仕組みの中で親の会の位置づけや役割についての知見が得られ、本研究における協働のモデル構築への重要な示唆を得た。 Y市の調査では、重症心身障害児の親たちが設立したC団体の関係者への聞き取りを実施した。障害当事者と親という立場の違いや身体障害と知的障害という差異による対立が時に生じながらも、C団体の運営委員会がそれらの多様な立場の人々を含んでいることから、障害当事者と親の協働のモデル構築の可能性を見出せた。 また昨年度に実施した、NPO法人D団体に関わる母親およびグループホーム(以下、GH)に入居する知的障害者への聞き取り結果について日本地域福祉学会第28回大会で口頭発表を行った。D団体が母親たち中心の運営であることが、知的障害者にとっても母親にとってもGHへの入居を促進する要因となると同時に「自立」を具体的に意識して親子関係を捉え直す契機となり、「親と子の自立」の実現に向けた親中心の団体の意義を報告した。 また「知的障害者の自立をめぐる親のためらい―『知的障害』という特性に着目して―」として『立教大学コミュニティ福祉学研究科紀要第13号』に投稿し掲載された。本論文において「自立を求める障害者」対「自立に反対して抱え込む親」の構図には還元しきれない親子関係があり、自立は知的障害者と親が共に揺れ動く思いを持ちながら相互行為を通じて達成していく多様なプロセスであることと、自立を可能にする社会環境の整備の必要性を指摘した。
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