前年度から引き続き、教員のinduction(入職過程)の具体的制度形態として、レジデンシー制度に着目し、その特質解明を図った。同制度は、学校を基盤とする研修(=レジデンシー)を採用前後に設定するものである。また新採教員引き留め等に効果を発揮しており、米国内において同制度の拡充が期待されている。 本年度は以下三つの具体的実践に即して、より詳細な制度空間の描出を行い、その意義を提示することを課題とした。 まず、Academy for Urban School Leadership(NPO)、シカゴ大学の取組について、前年度は養成プログラムのカリキュラムとその条件に注目したが、本年度はメンタリングの実態把握を主眼とした。教員養成を契機としつつ、学校内外で教員文化の醸成が発見された。その形態において差異はあるが、両者は志望者に実践を試みる共同体に参加しているという認識を与え、勤務継続意思を促しうる。 次に、予備調査と再度の渡航調査を踏まえ、サンフランシスコ教員レジデンシーの分析を行った。その際、同取組みが青年期の発達課題をいかに視野にいれているものなのか、その潜在的特質の解明を試みた。米国研究のレビュー等から、教員志望者の断念は、志望者個人を含んだ関係性等の構造・作用から捉える必要があることが明らかになった。本研究は、それらは青年期の発達課題として理解されうるという仮説に立つ。 組織内のネットワークを基盤として、二つの特色を確認した。①教員志望者が研修医制度と同様、単なる実習生ではなく貢献者として扱われるため、自己卑下を回避して、無理なく漸増的に職能成長と責任感醸成とを同時実現しうるという点である。②単一学校を拠点にしつつも、他学校や大学・地域・運営組織等での人的交流を積極的に促して、社会関係資本を醸成しうるという点である。新たな教員養成システムの構成原理につながると指摘できる。
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