本研究は、コンピュータシミュレーション手法を用いることにより、高劣化耐久性・高効率太陽電池の実現に向けてその設計指針を得ることを目的としている。平成27年度は、密度汎関数強結合(DFTB)近似に基づく分子動力学計算プログラムの開発及びカーボン系薄膜材料のCVDシミュレーションへの応用を軸として研究を行った。 1.DFTB法に基づく分子動力学計算プログラムの拡張 平成26年度までに、DFTB法を用いた分子動力学計算プログラムの開発を行った。それにより、数万原子スケールの量子化学に基づく分子動力学計算が可能になった。しかし、長時間化に関する課題は解決できていない。そこで、当該年度は、Car-Parrinello法に基づく波動関数の仮想的な時間発展アルゴリズムをDFTB法に組み込むことで、量子化学的分子動力学計算の高速化に実現した。具体的には、原子核の運動と同時に、波動関数に仮想的な質量を与え、velocity-Verlet法に基づいて時間発展することで、計算負荷が最も大きい自己無撞着計算を回避することが可能になった。 2.水素化アモルファスカーボンのCVDプロセスにおける硬質化機構の解明 水素化アモルファスカーボンの機械的特性は、水素含有割合及びsp3割合に大きく影響を受けることが知られている。とりわけ、sp3割合が高い膜において優れた機械的特性を示すことが理解されている。しかし、sp3結合の生成に基づく硬質化機構に関しては、十分理解されているとは言えない。そこで、DFTB分子動力学計算プログラムを用いることにより、サブサーフェス領域におけるsp3結合の形成を可視化することに成功した。具体的には、sp2-richな領域においてsp3ネットワークが次第に形成されることが分かった。また、優れた機械的特性を有するa-C:H膜を形成するための、最適な照射エネルギー域の存在も明らかになった。
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