本研究は,学習者が良い学業成績を得られるような適切な勉強方法(学習方略)の使用促進および定着のために,どのような要因に注目すべきかを明確にすることを目的としてた。研究代表者(山口)は,ある学習方略を使用することに対する効果的であるという認知(有効性の認知)と面倒であるという認知(コスト感)に注目した。2013年度には複数の調査によって,有効性の認知に「いつ」「どのように」使用するかといった詳細な条件を加えてその役割を明確にした。2014年度には調査によって,学習方略の使用と課題に対して抱く憶えられるという判断(学習容易性判断)との関係性を仮想的な検討を行った。また,メタ記憶の枠組みを用いて,憶えることが容易だと判断した項目ほど学習方略の使用量が減るということが明らかとなった。加えて,この関係性や学習容易性判断と記憶成績の関係性が動機づけの種類やその強さによって変化することを示した。 2015年度には続きとなる実験を行った。まず,課題への目標志向性を教示によって操作した。さらに,学習内容への事前知識の操作も加えた検討を行った。学習容易性判断と記憶成績との関係に対しては,課題への目標の方向付けの効果がみられた。課題に取り組む方向付けが消極的な場合,憶えられると判断した項目ほど思い出した。また,学習の対象をリストとして,学習方略を体制化とした検討を行った。分析の結果,課題内容を身につけるよう方向付けられ,自身が低い学習者および身につけられないのを避ける目標が高い学習者において,有効性の認知と体制化の関係性がみられた。 有効性の認知がもつ方略使用への影響について,どのような条件で効果がみられるかが本実験を通して明確になった。本実験の知見より,教育実践への介入をより精緻に計画することが可能となるだろう。
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